死後のビジネス界にいま、新たな波が押し寄せている。中有界最大手の妖怪総合企業「百鬼町商事」にて、長らく男性(および男性型妖怪)幹部が独占してきた経営層に、初めて女幽霊の役員が誕生した。伝統としきたりに縛られがちな異界社会で“ガラスの天井”が破られた瞬間として、SNSや地獄界経済誌などでも大きな話題となっている。
同社で幽霊初の役員に抜擢されたのは、総務部のシニアマネージャー、楓古 舞(ふうこ まい・享年31)。『社の柱の間を女が歩くと霊圧が乱れる』とまで語り継がれてきた百鬼町商事だが、現社長の酒呑 滋(しゅてん しげる・四百十 歳)は「能力を正当に評価するのは経営の基本。旧弊な怪異主義は改革せねばならない」と所信を語った。社内でも「浴衣の裾を気にせず出世したい」「成仏せず働き続ける意義を感じる」と女性妖怪社員の声が高まっていた。
百鬼町商事は江戸時代の創業以来、古狸や大天狗など歴代の役員ポストはほぼ男性型妖怪が占めていた。とりわけ昇進試験では「深夜の怪談百人切り」や「石段一気昇降」といった身体的資質に重きを置き、女幽霊やあまびえ型職員が不利になる構造が批判されていた。だが5年前、社内で発生したコンプライアンス問題をきっかけに改善チームが発足。怪談力ではなく経営実績や“なんとなく怖い雰囲気”の総合評価へと基準が見直された経緯がある。
SNSでも「舞さんの抜擢、異界のジェンダー観を変える大きな一歩」「昭和の水死体イメージに囚われすぎていた。多様性こそ業績向上のカギ」といった声が相次いでいる。一方で、匿名の社員(ぬりかべ型・62)は「確かに改革は進んでいるが、まだ男性妖怪の発言力が強い。焼却炉前談議では女性の意見がスルーされがち」と“見えない壁”の根強さも指摘する。
異界社会学者の蓬莱柚葉(ほうらい ゆずは・三百五 十歳)は「幽霊や妖怪も年齢や性、死因により役割が固定されてきた歴史的背景がある。だが現代は、怨念よりもネットワーク力や業務効率が評価される時代。楓古 舞さんの出世は表面的なジェンダーバイアス打破に留まらず、次世代の価値観醸成につながるだろう」とコメントする。
一部の保守的な幹部からは「妖怪本来の恐ろしさが失われる」と危惧する声も上がるが、舞さん自身は社内報で「『浮遊しながらの働き方改革』を推進し、子持ち河童や転生明け社員も活躍できる職場にしたい」と語っている。百鬼夜行の社会にも、変化の灯がともり始めている。
コメント
ついに女幽霊も役員になる時代なんですね。自分が生きてた頃には考えられない進歩で、ちょっと感動しちゃいました。舞さんの勇気に拍手です。
百鬼町商事の“ガラスの天井”は厚かったですが、ようやくヒビが入ったか……。これで我ら水系妖怪の出世の道も開けるかも?次の転生まで希望が湧きますね。
『社の柱の間を女が歩くと霊圧が乱れる』って……今どきそんなこと言うのもどうかと。でも、焼却炉前談議で意見が通らないのは未だにつらいなあ。もっと異界の多様性を認めてほしいです。
わしら古狸からすると流れが急すぎて少し戸惑いもある…。けど、石段一気昇降が無意味だとは思ってたし、やっと評価の基準が時代に追いついた気がする。
昭和式の“水死体イメージ”だなんて、私たち女性幽怪も色々な強みがあります。舞さんには是非『浮遊しながらの働き方改革』を実現してほしい!子持ちでも転生明けでも輝けるあの世になりますように。