近年、死後の世界のニューリバー川沿いで「住宅格差」が急速に広がり問題となっている。元領主一族が悠々と過ごす広大な空き城の一方で、現世の新規亡者や孤独な妖怪たちは狭小アパートメント墓所、果ては「墓石ルームシェア」を余儀なくされている。幽霊不動産情報誌『ゴースト棲家』最新調査で、その鮮明な格差が浮かび上がった。
伝説の大名家出身であるゴースト・コンサルタントの森泉慶次郎（享年58）は、三百年物の城館に祖先と共に滞在中だ。城には四十八の間と供養塔、死後の庭園まであるが、実際に住んでいる魂は五名程度。「石垣の補修も転生省の補助金で余裕があり、昔の仲間たちとのんびり花見を楽しめる」と語る。一方で、新たに死亡した若年層の幽霊は『旅人供養団地』などあの世の公営住宅に抽選で入居。落選すれば、他人の墓石や寺社の裏手に間借り状態となる。会社員（元・28）の有河トビオさんは「6畳の石室に3人で暮らし、夜も足が伸ばせない。生前どれだけ努力しても、親の墓が立派じゃないとまともな部屋は選べない」と肩を落とす。
住宅格差は就業機会や結婚、死後子育てにも影を落とす。特に、狭小墓所割合が高い“新卒亡霊世帯”は、住宅供給が追いつかず、ブラック企業的な供養サービス業で長時間従事させられる事例も目立つ。今年、迷宮寺霊園で起きた「幽霊過労死労災申請事件」では、納骨堂の管理集団が幽霊新人たちに膨大な墓参対応を押しつけていたことが発覚し、幽界労働局が調査に乗り出した。『地下雇用白書』によれば、優良な納骨ビルで働く魂ほど広い居住権と転生ボーナスポイントの優遇を受けやすい。
さらにSNSでも『親ガチャ墓ガチャ』と称した格差自虐投稿が流行している。妖怪インフルエンサー・水花シズモ（沒年不詳）は「現世で親の元を選べなかった分、死後こそ希望のある社会にしてほしい」と訴える。彼女の投稿には「羨ましい城の間取り」「隣人の供養がうるさい」「墓石間仕切りが薄すぎる」といった共感コメントが多数寄せられている。
異界不動産協会では、地方の空き城再利用や霊界ベーシックトゥームの創設など、持たざる魂への住宅政策強化を検討中だ。しかし高級霊廟オーナー団体は「先祖伝来の持ち家権益を脅かすもの」と反発の姿勢を崩さない。専門家の間では、死後社会もまた現世同様『遺産と血縁』による構造的な格差からの脱却が求められているという。格差是正の議論は今後ますます熱を帯びそうだ。
コメント
久々にこういう話題を読むと身につまされます。私も今年の転生で落選して、今は納骨堂の裏手を間借り中。昔から城持ちの家系ばかり優遇されて…現世と変わらないとは思いたくなかったなぁ。
この住宅格差、百年前より深刻になってますな。石塀の向こうから花見の声だけ聞こえてきて切ない。そろそろ幽界リフォームブームでも来ないものか。
正直、墓ガチャとか笑えない…わたしは3回連続で抽選外れて、いまだに他人の墓石シェア中です。供養団地の広さと静けさが恋しい。
これは驚きというか呆れるな。幽界ってもっと平等な場所だと思ってたのに、現世と同じような格差があるなんて。幽界労働局、しっかり働いてほしい。
親ガチャ墓ガチャって流行ってるけど、供養ノイズより隣人の怪談話のほうが気になって眠れない夜も多い。城主の暮らしは確かに憧れるけど、案外静かすぎて寂しい…なんて話も聞くし、死後も住めば都かもね。