急速な都市化が進む彼岸市郊外で、近年深刻化する“浮遊林消失”に新たな光明が差し込んでいる。中心となったのは、幽世(かくりよ)各地で活動する妖怪養蜂家集団「蜜月の巣」。ヒトならざる養蜂家たちが環境汚染と森林縮小に苦しむ死後世界の森を再生すべく導入した“幻の幽蜂”活用プロジェクトが、異界エコツーリズムから官公庁まで波紋を広げている。
無念の心で生まれた少し物憂げな幽霊養蜂家・折林まよい(幽霊、享年33)は語る。「ここ10年で樹木の幽幻度が低下し、森のあちこちで木々が薄く溶け始めています。都市化の影で見えぬ気配の乱れや浮遊廃棄物が重なり、“あの世の森”さえも消えていく危険が急拡大していました」。彼らは物の怪たちと手を結び、市街地に残る狭小な浮遊林に“幽蜂”と呼ばれる特殊な蜜蜂を再導入する試みを始めた。
この“幽蜂”は、生前ミツバチだった妖精が輪廻を拒み変化した希少種で、枯れ木の気を浄化し新芽を呼び覚ます不思議な能力を持つ。蜜月の巣代表シミズ滴(妖怪、年齢不詳)は「幽蜂が舞うと花夢が拡大し、都市の端で忘れ去られた林が息を吹き返す。蜜は不可視の浄化粒子を含み、大気中から霊的な汚染物質を吸着して森全体に活力をもたらす」と語った。実際、導入後半年で劣化が進んだ幽松林の葉が蘇り、死者と精霊の休憩ポイントとして人気が復活した。
この取り組みはエコツーリズム業界にも波及し、異界ツアー大手の逢間トラベルは“夜の幽蜂観察会”を企画。SNS上では「森に新しい命の彩り」「幽蜂が舞う光景が幻想的」といった絶賛の声が相次ぐ。さらに、死後世界都市計画庁の百場禅(亡者官僚、65)は「幽蜂導入地域で環境災害リスクが大幅に低下した。今後のモデルケースに」と公式見解を発表した。
ただし課題も残る。都市深部の過密墓地では、幽蜂の定着が難しく群れの分布拡大が停滞している。また、幽蜂蜜の密猟や転売を行う浮遊妖(ぬえ)グループによる違法取引も指摘されており、蜜月の巣は「共存ルールを守り、森を未来へつなぐ責任を持ちたい」と注意喚起している。死後都市と幽林の境界線で、妖怪たちの創意工夫が今、かつてない緑の再生旋風を巻き起こしている。
コメント
こんなに森が蘇るなんて、幽蜂の力はやっぱり本物だったんですね。わたしは前回のあの世エコツアーで密月の巣さんの林を見ましたが、あの不思議な輝きは今でも目に焼き付いています。これからも未来の幽林を守ってほしいです。
でも幽蜂蜜の密猟とか、やっぱりどこの世界にも欲に目がくらむ奴はいるもんなんだなぁ。森が消えたら俺たちが昼寝する場所もなくなるんだから、共存ルールはしっかり守ってくれよ。
霊域の林が薄れていくのは寂しかったけど、花夢が広がるなんて素敵…幽蜂の舞い、子どもの頃に見て以来だわ。あの日に戻ったみたいで、なんだか懐かしい気持ちになります。
百場さんも言ってるけど、これが他の都市のモデルケースになるといいね。幽界都市ばかり発展して森が消えるのは、生前も死後も見飽きた光景だしさ。やっぱり森の氣が安定してると気持ちいい。
私も去年転生前は都会墓地住まいだったから、幽蜂が定着しづらいの分かる気がする。狭いし、浮遊廃棄物も多いし…でも、どこかに希望の種がまかれるのは素敵なことね。あの世の緑、もっと増えてほしいな。