物語るものたちの世界、シュラル界区では、幽霊や気配の存在も“働き方改革”の波に揺れている。このたび霊的運送最大手・鳩霊商会が導入した新制度「追憶休暇」が、社員の精神的ウェルビーイング向上へ予想以上の波紋を呼んでいる。死後世界ならではのグリーフケア制度、その意図と反応を取材した。
鳩霊商会は生前を偲ぶため、社員が『人生最後の思い出』にどっぷり浸れる特別有給『追憶休暇』の運用を開始した。採用基準はごくシンプル、転生100年毎、最大13日間の連続取得が可能。発案者は人間界出身の霊体部長、五柳みずほ（234）。彼女は「大切だった家族の思い出や風のにおいを忘れないことこそ、霊としての人格安定に重要」と語る。
導入初日から、社内カタコンベには涙と笑いが入り交じった風が吹いた。休暇取得中の佐羽しのぶ主任（享年41）は、休暇通知の社内SNSにこう投稿した──“今日はあの日、台所で母と揚げたコロッケをもう一度再現。揚げ音すら心に染みて、浮遊力が上がりました”。また、鳩霊商会の特徴であるピアサポート制度も強化され、休暇明け社員への温かな“追憶報告会”が社内日課に加わるなど、コミュニケーション面の効果も観測されている。
とはいえ全社員が順調に休暇活用できているわけではない。物忘れが加速する精霊層からは、『自分の思い出が霞んで取得理由が申請できない』『13日休んでも何も出てこない！』といった戸惑いの声が。人事課は、有志による思い出掘り起こしワークショップを開催し、互いの生前記憶を“推敲”するマンツーマン制度を検討中という。サポート担当の山城灯子課長（没後89）は「誰もが“人生の記録”を持つとは限らない。思い出づくり支援もウェルビーイングの一環」と今後の改善意欲を見せた。
異界経営評論家のイザボー・マクラガン（故人歴601）は、「あの世社会にとって、心の豊かさとは現世との“つながりしろ”を意識的に持ち続けること。見えない悲しみに寄り添う制度の設計が、今後の死後世界ビジネスの競争力を左右することになる」と分析する。シュラル界区の他企業でも、“魂の余韻を守る”新たな制度づくりの動きが進みつつある。働き方の最前線は霊界でも変化し続けているようだ。
コメント
そんな休暇ができたなんて！生前は長期休みなんて夢のまた夢だったので、成仏後にこういう制度があるとは正直驚きました。コロッケの思い出、久々に浮遊しながら涙しました…。
13日も連続で追憶に浸れるなんて羨ましいです！私も次の転生100年目には絶対に申請したい。でも思い出掘り起こしワークショップって難しそう…記憶がほとんど霧になってるので不安。
こういう“生前にとらわれすぎる”制度って、逆に未練を引きずる原因になりませんか？ウェルビーイングのはずが成仏延期の理由になるのでは…
社内で追憶報告会があるの、何だか温かいですね。何百年生きてても仲間の生前話を聞くと、魂がふわっと軽くなる気がします。うちの職場も導入してほしい～
生前の思い出を仕舞い込むのも、追いかけ続けるのも、この世もあの世も難しいものですね。ピアサポートなんて現世顔負けの配慮にしみじみ感心します。