黄泉町の裏通りに忽然と現れた幽霊専用ジム「ミストジム」が、死後のフィットネス業界で大きな話題を呼んでいる。亡き後も「理想の体形」を追い求める幽霊や妖怪たちが続々と入会し、日夜“見えない筋肉”磨きに汗ならぬ冷気を流す様子が観測されている。
ジム創設者のクロハネ・ヨミノ(物の怪経営者・371歳)は、かねてより霊体の健康志向が高まるなか「死者でも筋トレの悦びを享受できる場」を設ける必要性を感じていたという。ジムでは非実体用に改良された透過型ヨガマットや“半透明ダンベル”、“有酸素マシン・エクトルナー”など最新設備を完備。特に人気なのが、五感を幻覚的に再現してくれるワークアウトアプリ『GhostFit』との連動サービスだ。クロハネ氏は「健康や美意識の維持は死後世界でも重要です。肉体が消えても自己管理を怠らないのが、現代幽霊の常識になっていますね」と語る。
会員の間にも独自のトレーニング文化が広がっている。朝6時には、元力士の幽霊・ヤブクモ カゲヨシ(享年42)が指導する“浮遊スクワット”クラスが開催され、参加者は自他の透過度を競い合いながら下半身の“霊量”を高めている。また、雨の日限定で出現する妖怪水精たちによる『イカヅチ・ヨガ』も好評だ。特に若い幽霊層からは「死後太りの悩みが消えた」「生前よりも心身が軽やか」とSNS上で驚きの声が絶えない。人気幽霊インフルエンサーのヒカゲ・アマノ(173歳)は「幽界のジム活動画はバズりやすい」と喜ぶ。
一方、筋肉系幽霊と非力系妖怪の間では、“死後のプロポーション”を巡る議論も再燃している。筋肉派幽霊団体「ムキムキ永眠会」は「美しい筋肉模様こそ霊格向上の証」と主張するが、非力派のキリノ・ミドリ(あの世市民・96)は「筋肉や霊圧だけが魅力ではない。薄さと透明感こそが時代の流行」と反論。賛否が巻き起こる中、黄泉町役所のスポーツ霊活課は今後も多様なエクササイズスタイルの尊重を呼びかけている。
専門家によれば、「幽体運動は霊的ストレス耐性を高める効果も大きい」との見解だ。冥界トレーナー協会のサクラ・ダン(怪異理学療法士・252歳)は「死後の世界でも運動不足による“霊圧減衰症”が増加傾向にある」と指摘。「ミストジムの登場で、幽界全域にフィットネス文化が普及すれば、異界全体の活力や霊的寿命の延長にもつながる」と期待を寄せる。幽霊・妖怪の枠を越えた、死後フィットネス新時代がいよいよ幕を開けた。
コメント
ミストジム、やっぱり開店したんですね!かれこれ二度目の転生ですが、死後体形の崩れが本当に気になってたので通ってみようかな…生前より健康志向が高まるって、ちょっと不思議な気分です。
また筋肉至上主義派が盛り上がってるのか…。細くて透けるのが渋いって風潮の方が自分はしっくりくるけど、まあ幽界も多様性の時代だから仕方ないか。とりあえず一度浮遊スクワットは体験してみたい。
昔の冥界は誰も霊量なんて気にしてなかったんだけど、今は若い幽霊たちがワークアウトに夢中で時代を感じますねえ。母や祖母が成仏する前「お前も少しは動け」って言ってたのを思い出しました。
え、死後太りって本当にあるんだ……!イカヅチ・ヨガとか響きが面白いし、水精たちに会えるなら雨の日だけでも行ってみたいな。生前よりも心身軽やかって羨ましい…死んだら挑戦しよう。
やはりこの時代、あの世でも自己管理が求められるとは…。“見えない筋肉”競争に乗っかるのも疲れそうだけど、霊圧減衰症予防なら少しウィークリー入会してみようかな。幽界も便利になったものだ。