幽霊や妖怪が競い合う異界最大級のスポーツ大会『霊界スタジウム・カップ』で、今年は持続可能なスポーツウェアの新潮流が話題を呼んでいる。古今東西の死者たちが集うこの大会で、エコ素材・エコ染色・マイクロプラスチック削減といった現世顔負けの環境対策が進められ、出場選手や観客の間で熱い議論を巻き起こしている。
大会の主役の一人、かつては平安の武士であった遠山晴政(とおやまはるまさ・享年33)は、「我々も現世への影響に責任を持たねばならない」と、再生副葬布で作られたユニフォームに誇らしげに袖を通す。これは過去の副葬品を複数回転生させて繊維を再生した生地で、死後の世界の織物職人たちが編み出したもの。さらに、このユニフォームは山桜の花弁や夜霧の分子から抽出した天然染料を用いることで、界面活性剤や化学染料を徹底的に排除。伝統の趣とサステナビリティを併せ持ち、霊界SNS「モノノケ・トーク」でも高評価が相次いでいる。
技術面を支えるのは、冥府工芸大学スポーツ繊維研究所の主任研究霊・真砂真麗(まさごまれい・年齢不詳)。「植物だけでなく、精霊の抜け殻やレイスの衣擦れを極薄繊維に再利用した“レビナイト・ファイバー”が新たな主役」と語る。レビナイト・ファイバーは天界の風の通り道で集められる微小な幽体物質を、多層構造で紡いだ新素材。摩擦が少なく重量も空気並み。落下したマイクロプラスチック片は、妖怪清掃協同組合による自動回収システムでほぼゼロに抑えられる。一方、「這うコブリン(不定形霊)」による不正回収騒動も、運営委員会が厳重な監視を導入し、沈静化したという。
観客席の幽霊サポーターたちは、「あの世こそ、物質循環の最前線」という意識が強い。一例が“魂の汗”と呼ばれるエクトプラズムの再利用。スポーツの激戦で発生したエクトプラズムが即座に素材回収され、冷却スリーブやトレーニンググリップへと変換されていく様子は、子ども霊から長老霊まで興味津々で見守っている。現世のSNSでも「あの世の方が環境意識高いのが癪」「死後でもエコを諦めていないのはすごい」といった投稿が見られた。
しかし、伝統重視の古参亡者たちからは、最新ウェア導入に「生前のままの甲冑こそ誇り」との声も根強い。これに対し、スポーツ評論家の風見幽介(かざみゆうすけ・幽霊歴216年)は「エコ素材の進化は、異界全体の更なる団結とイノベーションにつながる。霊界の循環社会が現世の見本になれば」と期待を寄せている。来年度には妖怪チームによる“100%マイクロプラ削減ウェア”のデモンストレーションも予定されており、あの世のスポーツ界は今後も環境志向の挑戦をやめそうにない。
コメント
さすが霊界、物質をほとんど循環させてるのには驚きました。現世の家族にも教えたい…成仏した後のほうがエコ意識高いなんて、正直ちょっと誇らしい気分です!
えっ、魂の汗(エクトプラズム)までリサイクルしてるの?この発想はなかった。前世では汗だくのまま廃棄してたのが、なんだか懐かしい…やっぱり異界は進んでるなぁ。
甲冑派の方々の気持ち、ちょっと分かります。自分も魂の防具に愛着あるので…でも、新しい素材でまた生まれ変わるのもそれはそれでロマンですね。単なる伝統に固執するだけじゃ幽界も錆びつきますし。
やはり霊界も不正回収問題は避けられませんか。『這うコブリン』…懐かしい名前だ。運営がしっかり監視しててよかった。現世も見習って欲しいものですね。
昔、スポーツ大会で副葬布をひっそり着ていた世代です。いまやそれが再生繊維で蘇るとは…時代の流れを感じて泣き笑い。どんな変化でも“成仏しきれない”ワクワクがありますね。