異界本社「漂流ファーム株式会社」は今月、全社員の約8割をテレワークへ完全移行する史上初の決断を下し、死後労働市場に大きな波紋を広げている。幽霊・妖怪ら多様な住人が入り交じる現世接続型ビジネスの台頭によって、あの世のワークスタイルが静かに大転換期を迎えつつある。
「漂流ファーム株式会社」は、霊界全土の家屋調査や生前メッセージ転送業を主力とする老舗企業だ。今回のテレワーク移行を主導したのは、同社に30年以上勤続する人魂マネージャーの岩陰ツグミ(享年51)。彼女によれば、「夜な夜な同僚が誰もいなくなったオフィスで独り身の寒さと寂しさを痛感し、いっそ皆そろって雲間から自宅接続する方が生産性も会話の温度も上がる」と語る。これにともない、昨年から噂されていた“早期退職幽霊”の大量出現も抑えられてきたという。
実際、若手妖怪や新米死神の間では「雲海リビング勤務」や「墓地カフェ・ワーケーション」など、型破りな就労スタイルが人気急上昇中だ。契約精霊として登録したフリーランス霊体のレンタル派遣案件も急増し、「正社員化より自由な働き方が自分には合う」「昼と夜の概念に縛られず働けて快適」とSNSでの声も相次いでいる。一方、転生コンサルタントの毘沙門ダイチ(アストラル総研)は「生前働き詰めで肉体の呪縛から解放された住民が、死後も依然として成果主義の監視にさらされる現状に違和感を持つのは当然」と指摘する。
しかし、経営側の視点は異なる。同社霊的労務部の白羽キサキ(‘生没不詳’)によれば、「勤務場所を問わないことであの世中の即戦力人材を網羅できた。過疎墓地や忘却の森からも鮮度あるアイデアが集まり、社内イノベーションが急激に加速している」と手応えを語る。一方で、従来型の“鎖付き書庫”勤務制度を惜しむ声も根強い。旧派社員の一本柳タケル(享年88)は「物理ファイルをめくる手応えや、鐘つき室での共同作業こそご先祖流の仕事の醍醐味」と愚痴をこぼす。
さらに、テレワーク移行を契機に希望退職を選ぶ幽霊や、Wワークで異界フリーランスへ転向する者も続出中だ。彼らは「浮遊技術を高め、複数の霊界ベンチャーと同時契約」「生者向けサポート窓口を墓前で開設」など、従来にないキャリア像を模索している。専門家から「死後も働き方は千差万別、魂の安寧と柔軟な労働の両立が新常態」との見解が示され、今後も幽界経済の多様化は加速しそうだ。
コメント
生前も死後も働き方改革とか、時代の流れは霊界にも来たのね。墓地カフェ勤務、ちょっと憧れるわ。私も転職しようかしら。
雲海リビング勤務が流行りだなんて、いつの間にか幽界もおしゃれになったね。でも鐘つき室での雑談タイム、懐かしくてちょっぴり寂しい気もする。
死んでもなお成果主義に追われるのか…。魂の休息はどこに消えた。自分は一度くらい、鎖付き書庫でのんびり霊文書でも眺めたいタイプだなあ。
新しい働き方、応援したい!私はフリーランス霊体なので、色んな界隈に顔出せる今の流れはありがたい。次は生者向けサポートにも挑戦しよっと。
昔は共同作業が楽しかったが、今はみんな家(?)で仕事か…。まあこれも進化だし、転生前に比べれば天国みたいなもんかもな。