夜を漂う“魂の鍋”シェアデリバリー急増 幽界で広がる置き配文化

夜の青白い光に照らされたバルコニーで、複数の幽霊たちが配達ロボットが置いた鍋料理を囲んでいる様子。 フードデリバリー
幽界のバルコニーで“ナベナベ便”のシェア鍋を一緒に味わう霊たち。

死後の世界で鍋料理のシェアデリバリーサービス『ナベナベ便』が、未明の古池通りで大ブームとなっている。昨年まで個人注文が主流だったが、「幽霊同士の繋がりを味で深めたい」と、見知らぬ魂たちが一つの鍋を分け合う“シェアデリ”が急成長中だ。

盆踊り広場近くの幽界第四区、“ナベナベ便”の人気メニューはあの世野菜たっぷりの『冥途寄せ鍋』。配達ロボットの“フローター型”が、各霊の家の“霊気バルコニー”に黙々と鍋を置いていく。魂住民の間で好評なのは、注文したグループに混ざって、時に見知らぬ精霊や小鬼、記憶のあやふやな古代亡者がそっと参加する“置き配サプライズ”だ。会社員霊の茄子川蓮司(享年43)は「生前、人付き合いが苦手だった。でも今は置き配鍋のフタを開けると、誰かしら別の霊がちょっとだけ具を足している。心がほんのり暖かくなる」と語る。

人気の背景には、“深夜の孤独”解消の流れがある。幽界調査機関によれば、近年は超常スマホ経由でアプリを使った『出会わないデリバリー合流』希望者が急増している。アプリの新機能『つながり鍋』を使うと、同じ時間帯に同じ鍋を頼んだ幽霊たちが自動的にマッチングされ、ロボットが人数分を等分して各霊邸に配達する仕組み。中には、新たな幽友が翌日“感想メッセージ”を送り、異界SNSで交流が生まれているケースも多いという。

運営責任者の紫峰あずさ氏(幽界飲食同業組合)は「置き配の匿名性が、不器用な霊や初対面が苦手な妖怪にも好評。昼と夜で全く味覚が変わるアンシン鍋や、記憶が混線する“思い出鍋”など、各種コースも展開しています」と語る。一方、配達ロボへのイタズラや“鍋だけ先に食べて姿をくらます半透明妖精”問題も発生し、アプリには新たな「存在感認証」機能が導入された。

SNS上では「今夜は3人目の正体が最後まで分からなかったけど、玉ねぎ(?)の素晴らしいカットありがとう!」「サーモグラフィー越しに見る寄せ鍋の輝き、異界最高」など、交流を楽しむ書き込みが殺到。深夜の魂たちをつなぐ新しい食卓、シェアデリバリー文化は幽界で今後さらに多様に発展しそうだ。

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