現世の感知を超えた存在、幽界と魔界。両国間では数百年にわたり「半透明領域」と呼ばれるあの世の中間地帯が未画定のまま残っていた。今月、双方の首脳がついに霊界大使館で対面し、領土問題と安全保障政策を軸とした歴史的な会談が実現した。不可視国境を巡る緊張とその舞台裏、新たな外交ゲームの幕開けに、あの世の住民たちが注視している。
首脳会談が行われたのは幽界・ユーヴィス地区の中立大使館。幽界側からは「霊統一評議会」議長の鵼山夢路(ぬえやま・ゆめじ)、魔界からは「魔王執政議会」代表のトリガルヴァ・イグレーリスが出席した。約6時間にも及んだ議論では、半透明領域を現状維持から共有管理に移行する新路線が協議され、互いの魂流通経路とエネルギー資源の配分も焦点となった。
かねてから同地帯では、幽界の自衛霊団と魔界の影軍団が自派の安全保障を掲げて巡回を強化。昨年秋には『境界線上の漂流魂』による迷子事件が相次ぎ、両国民の緊張が高まっていた。会談では共同監視チームの設置や「不可視境界通信網」の立ち上げ、防衛演習の情報即時共有など、魂の摩擦を未然に防ぐ措置が話し合われた。また、魔界が幽界産の霊貨流通に一時的な経済制裁を科していた問題についても、段階的な解消で原則合意に至った模様だ。
注目を集めたのは双方の核抑止ドクトリン――いわゆる『霊核結界』に関する水面下のやり取りだ。鵼山議長は『抑止力を盾にした威嚇は、永遠の共存を損なう』と指摘し、透明度の高い相互通知制度導入を呼びかけた。対するイグレーリス代表も『我々は攻撃目的ではなく、異界の安寧を守るための最小限主義を貫く』と述べ、双方の結界発動手順の共有に前向きな姿勢を見せた。
死後社会SNS「アストラルフォーラム」では『ぬえやま首脳の握手は歴史的瞬間』(精霊研究者・フロステリノ祥子)や『透明防衛同盟の創設を希望する』等、ポジティブな声が多く見られる一方、『共用管理は魂の均質化を招く』『魔界の影税の撤廃は中小業魂の打撃だ』と懸念の意見も根強い。今後、現場自衛霊部隊や住民層の実際の調整、新領域条例制定が試金石となりそうだ。
コメント
ぬえやま議長とイグレーリス代表が手を取った瞬間を、何度転生しても忘れられません。こうした歴史的出来事に魂の震えを感じました!平和な半透明領域に期待します。
正直、魔界の影軍団との緊張は幼霊の頃から聞かされてきたので、こうやって実際に歩み寄る時代が来るとは驚きです。共存できたら、漂流魂の迷子事件も減りそうですね。
透明度の高い相互通知制度って、本当に機能するのか疑問です。過去にも魂資源の取り合いで約束がすぐ霧散してたこと、皆忘れてないですよね?今回は形だけにならないでほしいです。
魂の均質化…私たちみたいな境界民には死活問題です。多様な霊の在り方を守る仕組みも議論してほしい。成仏も転生も個性が大事だと思うので。
魔界の影税撤廃、うちみたいな零細業魂には正直きつい…。経済制裁の頃の方がまだやりくりしやすかった気がするの、私だけ?新領域条例、現場の声も聞いて制定してほしいです。