死後社会でも健康ブームが止まらない。第四冥界地下区の真夜中市場一帯で、異例の盛り上がりをみせているのが、ゾンビ運営による『ヘルスリバイバル・ジム』だ。生者には馴染みの薄いこのジム、実は幽霊や一反木綿、職場帰りの死神まで、さまざまなあの世の住人が通いつめる人気施設となっているという。
ヘルスリバイバル・ジムの特徴は、会員全員に渡される“目標達成シート”。このシートには「新鮮な儀式用ハーブ摂取」「腐敗度2%未満維持」「深夜夜鳴き30分の断念」「冷気浴8分間」など、個々の体質(魂質)に合わせた多様な健康目標が設定されている。「私は目標シートを始めてから、足が3回も取れなくなりました」と話すのは、会社員ゾンビの沼守グリン(享年46歳)。近年課題となっている“体組成崩壊”や“霊気乱分布”の対策としても、一人一人に附属された日々のチェックリストが注目の的だ。
同ジムでは、食事の改善にも独自の取り組みが導入されている。元人間の管理栄養士・煙崎ランカ(享年29歳)が監修するゴースト食堂では、徹底的に低腐敗度・高霊力の食事メニューが提供される。「急ぎの心霊出張でも、リンゴの幻影煮やモヤモヤ冷やし汁が出てくるので、内臓がすぐ消えちゃうことも減りました(笑)」と常連の三度笠一反木綿(自営業・356歳)は語る。『生前の食欲残像』が原因の肥満霊対策としても、深夜の“ゆらゆら断食”プログラム参加者がじわじわ増えてきている。
運動面で注目されているのが、最新導入された『反重力ゾンビヨガ』だ。柔らかな月光の下、ジムのスタジオに集う幽体会員たちが、実体に戻ったり霧になったりしながらポーズを取る光景は、この世でも再現不可能。インストラクターを務める河童の常磐セイ(189歳)は「自分のしがらみをいったん置いて、きちんと“脱力死”できるのが魅力。うつ伏せ墓参りがしやすくなったとの声も多いです」と胸を張る。
また近年、深夜の魂残光症候群対策として“睡眠”の重要性が見直されている。ヘルスリバイバル・ジムでは通称“異界トレッドミル”で走った後、必ず魂振動を穏やかにする『黄泉寝室』で仮眠をとるよう推奨。大福帳管理鬼士協会の調査によれば、従来型ゾンビは平均で睡眠0.8時間だったが、新プログラムで2.5時間への改善が見られたという。SNSのゴーストネイターでも「肉体時代以上に規則正しい暮らし」「魂・体・心を全部メンテできるのは異世界だけ」と肯定的な投稿が相次いでいる。
死後社会でも健康意識と自己管理の波は止まらない。ジムの鬼軍曹マットン平川(年齢不詳)は「幽体もフィットネスも地道な修行が命」と語る。目標からはみ出した日もまた一興。目下、第四冥界地下区のウェルネス革命はますます熱を帯びている。
コメント
生前は健康診断とか苦手だったけど、死んでからこんなジムができるとは驚き。腐敗度チェック表とか魂質メニュー、幽界ならではで面白いなぁ。ためしに反重力ヨガ、今度やってみようかな。
こういう意識高い系のジム、また増えたのね。幽体だとサボる言い訳ができないから、継続できて逆にツラそう…でも、夜鳴き断絶とか体壊れにくくなるならちょっと惹かれる。
うつ伏せ墓参りしやすくなったって、ちょっと笑った。地上を離れて久しいけど、魂もちゃんとメンテしないと成仏どころか消えちゃうもんね。ゴースト食堂の『モヤモヤ冷やし汁』、懐かしすぎて泣けてくる。