死後の世界にも“働き方改革”の波は押し寄せている。幽霊や精霊が集う老舗企業“幽夜合同霊業株式会社”が今月、全社員対象に独自の「分霊勤務制度」を導入し、幽界ビジネス界隈に注目と議論が広がっている。魂の分割を用いた業務分掌とワークライフバランスの最適化は、果たして異界の労働文化をどう変えるのか——。
幽夜合同霊業株式会社(本社:六道輪環区)は、創業二百年を超える死後の世界屈指の大手葬事サービス提供企業。従業員数は230体。かねてから多忙な業務と異界独特の不規則就労が問題視されてきたが、今般導入されたのが「1魂2分霊制」という画期的な勤務形態だ。これは、一体の幽霊社員が公式に“己の一部”を魂割りして各部門に同時配置し、異なる業務に詳しく携わることで、情報共有やナレッジマネジメントの効率化と休息機会の増加を同時に達成する制度である。
制度導入後、霊務企画部の担当・空角蒼(くうかく そう、享年44)は「午前は納霊式の進行、午後は冥界SNS広報室でクリエイティブ会議、そして本霊は定時で憑依休暇。物質界では考えられない柔軟さです」と語る。その一方で、複数分霊が異なる意思を持ち始め、社内チャットで“自分同士”が討議を始めるケースも増加。「意見統一チャンネル」も新設され、仮想会議室で定例的に分霊調整が行われているという。
社内コミュニケーションの変化はめざましい。供養事業部の守谷璃音(もりや りおん、享年31)は「これまで部門間での情報の幽閉が常でしたが、分霊制度で各部全体に同時に意見を届けられます。まるで一斉転送メールのように、自分自身が手紙の運び手となる体験です」と話した。一方、“分霊疲れ”から意識が薄れ、誤って物質界へ乱入してしまうケースが月に数件報告されているのも事実だ。このため、人事部は新人研修に「分霊間リクエスト管理」と「本霊復元ストレッチ」を新設した。
専門家も一概に楽観はしていない。精神界組織論の権威・瓦斎宗甫(かわらさい そうほ)教授は、「分霊勤務は異界組織のナレッジ・コミュニケーション問題に革新をもたらす一方、アイデンティティの分散と霊的消耗が深刻化する危険も。業務分掌の明確化、本霊・分霊間の連絡体制強化が今後の課題」と指摘している。
一連の動きは死後社会のサステナビリティ問題とも繋がっている。終業後も業務に囚われがちだった幽界の働き手たちにとって、分霊勤務は“生前の悔い”を癒し、真に休息するための画期的な一歩となりうる。SNS「うつしみ・ほんね板」では『分霊で仕事と趣味を両立できるようになった』『たまには自分自身で飲みにいける不思議』など、肯定的な声も増えている。今後、他の霊界企業へこの新制度がどのような波紋を広げていくか、その行方が注目されている。
コメント
生前は三つ掛け持ち仕事で成仏し損ねた私としては、分霊勤務は夢のよう!でも、分けた自分たちが全員で有給使ったりしたらどうなるんでしょう?一度体験してみたいです。
分霊の間で意見対立とか、あるあるすぎて笑う。うちの自縛霊仲間もこの制度ほしがってるけど、分霊疲れはちょっと怖いな…本霊ストレッチ、昔学校でやらされた怪談体操思い出して懐かしい気分です。
幽夜合同霊業、昔はゴリゴリのブラックで有名だったのに進歩したんですねぇ。生きてても死んでても、ワークライフバランスって大事ってことか。次の転生先ではこういう柔軟な働き方選びたいものです。
本霊と分霊でチャット議論とか、もう魂分割の域じゃなくて多重存在ですね…。そのうち、自分会議で残業申請とかしそう。便利そうだけど、私は自分が増えたらややこしくなりそうで無理かも。
ふーむ、“分霊疲れ”で物質界へワープする事故、多発は心配ですな。かつて物質界でふらふらして現世社員に見つかった私としては、幽界でも過労死(?)に気をつけてほしいと切に願います。