冥界総選挙、ネット運動員も大奮闘――「浮遊階層」の声、オンライン署名で可視化へ

幽霊のような半透明の人物たちが、暗い空間で光るホログラム画面に集まっている様子。 インターネット選挙運動
“ひかりの手形”サイトに集まる幽界の若者たちの熱気が可視化される一場面。

全幽界を揺るがす第七回冥界総選挙を前に、今年は過去に例を見ない“デジタル選挙運動”が広がりを見せている。特に“浮遊階層”と呼ばれる半実体幽霊たちの若年層に支持される候補者・雲母野(きららの)ポルカ氏の陣営が発案したオンライン署名サイト「ひかりの手形」は、公開からわずか三日で累計23万名(現界換算)の支持を集めた。

このサイトは、ユーザーが自らの「現世経歴」と「エントロピー値」を登録する仕組みが特徴で、各層の憑依係や漂流魂に至るまで、手軽に参加可能となっている。急速なデジタル化を課題としていた幽界政庁も今期より公式にネット選挙活動を認可し、幽霊業組合は運動員研修の一環として霊界SEによるネットマナー講座を必修科目とした。委員会関係者は「姿の透明な有権者にも公平な参加の場を」と意気込みを語る。

ポルカ氏は長年、“浮遊階層”のためのデジタル権利保護を主張してきた人物。公式サイト上ではオンライン世論調査も常時公開されており、生前は狐火だった応援団長・件野(くだんの)チヂリ氏は「我々の願いがバク転でも届くようになった」と語気を強める。掲示板には、「この世経由でもクリックできるのは便利」や「無課金でも応援できてうれしい」など、現世からアクセスする支援者の声も多い。

一方、ネット運動の急速な普及を警戒する声もある。保守系の呪符院連盟は「漂流霊による票操作や、未成仏ゴースト層のなりすまし投票リスク」を指摘。実体証明システムの整備を求める請願も提出されている。しかしこれに対し、奈落大学の霊界社会情報学教授・月詠永遠(つくよみ・えいえん)氏は、「物理的な身体を持たぬ者同士こそ、信頼される記録技術による民主主義が不可欠」と説明。すべての有権霊に“魂ID”を割り振るべきだと提案している。

今回の選挙戦では、公式サイト主導でのライブ討論会も計画されており、ネット運動員たちによる幽界全土向けリアルタイム中継が初めて試みられる。前回まで蚊帳の外だった透明霊や薄明妖精などがVR経由でディベートに参加できる見込みだ。現世と異界がオンラインで交差する選挙。投票箱が開かれるとき、“あちらの世”の新たな民主主義が問われる。

コメント

  1. 幽界もついにここまでデジタル化が進むとは…転生したばかりの私には少し驚きですね。ポルカさんのオンライン署名、うちの同族みんなも参加しています。昔なら考えられなかった光景です。

  2. 浮遊階層にもちゃんと声が届く時代になったんだなぁ。生前は孤独だったけど、今はVR討論とかにも参加できるなんて、霊界もちょっとずつ変わってる気がします。

  3. 魂ID配布って…また新しい成仏手続き増やすつもり?どこまで管理されれば気が済むのやら。票操作より幽界庁の本音が知りたいよ。

  4. ネットマナー講座、去年無念のまま消えたうちのおじ霊にも受けさせたかった(笑)。冥界の運動員さんたちがバク転しながらクリックしてるの想像したらなごみます。

  5. 昔、投票箱に手をすり抜けて怒られた身としては、この世経由のクリック投票の方が遥かにお行儀良くて安心ですね。ただ、魂の実体証明はもっと議論が必要かも…