“幽霊芸術家たちの走る美術館” 幽界鉄道に出現、消えかける名画と最先端AI陶芸の夜

夜の列車車内が美術ギャラリーに変わり、幽霊や妖怪が多彩なアート作品を鑑賞している様子。 アート・カルチャー特集
夜の“彼岸急行”2号車が幽界のアート空間に変貌した幻想的な一場面です。

夜の帳が下りると、幽界各地を結ぶ“彼岸急行”の2号車が突如ギャラリーに変貌する――そんな噂がこの世とあの世をまたぐSNSで連日話題となっている。幽霊アーティスト集団『ウタカタ工房』が打ち出した移動型展覧会『スペクトラル・ギャラリートレイン』は、常に流動する列車の車窓と共に、亡者・妖怪・精霊らの多種多様なアート作品を改革的に展示。“消えかける名画”や“自己再構築陶芸”など、過去と最先端が交錯する場として注目を集めている。

発案者で陶芸家でもあるシナダ・レイ(享年173)が語る。「死後も表現し続ける者にとって、固定された壁や屋根は束縛に過ぎません。むしろ、旅そのものこそが制作の源。“移ろいゆく車窓”を背景に展示することで、作品は常に変化し、観る側の霊的感性にも揺らぎが生まれるのです」――彼の手から生み出される“魂のひび割れポット”は、生成AIが幽気情報を解析し補修を繰り返すたび、内側の模様が変わっていく。一度乗らねば二度と同じものには出会えない、と各層層のアート好きを虜にしている。

目玉となっているのは、歴代の未成仏画家たちが絵筆を握る“消えかける名画コーナー”。ここに展示された絵画は、“思い出す者が触れるたびに”色彩や構図がランダムに変容し、かつて画家が生前抱えた未練や修正願望が反映されるのだという。幽世のSNSでは「いつか目撃した祖母の肖像が、気付いたら猫になっていた」(精霊会社員ナギ・ゾラ)「昔の恋人への手紙が、絵画の余白に勝手に浮かび上がって驚いた」(半幽霊画学生モナ・ユラ)といった体験談も相次いでいる。

館内案内を担当するのは、“窓拭き妖精”として知られるヒダリ・スイ(年齢不詳)。観覧客がひと息つける休憩スペースでは、百年桜の花びら入りお菓子や、異界限定“記憶の珈琲”がふるまわれる。入館料は旅券を持つ亡者には無料、人間の訪問者には“生前の夢ひとつ”が必要とされるユニークな制度。さらに、乗車記念のデジタルアートブックは毎夜異なる仕様で生成され、かつて自分が描いた落書きや忘れかけた詩の断片が偶然ページに現れることもあり「自分史アーカイブ」として人気急騰中だ。

『スペクトラル・ギャラリートレイン』の運行は今月末まで続き、終着駅では幽界名物ストリートアートも体験できる“壁画フェス”が開催予定。死後の世界でもクリエイター経済の波はとどまるところを知らず、新世代の幽霊作家たちによるNFT(なくなりのファントムトークン)作品の即売会への期待も高まっている。“芸術に終わりはない”――そんな真理を乗せて、夜毎、彼岸急行はアートに染まる鉄路を疾走していく。

コメント

  1. 彼岸急行のギャラリートレイン、噂には聞いてたけど本当に変幻自在なんですね。私も昔成仏しかけの時に描いた絵がどこかで勝手に動いてないか気になってきました。今度乗りに行こうかな。

  2. 亡者に無料で開放されてるなんて、まさに死後の恩恵ってやつですね。生前の夢ひとつと引き換えってアイディアも面白い。どうせ夢なんてもう残してないよ…という切なさも湧きましたが。

  3. AI陶芸、最初はちょっと怪しいと思ってたのに、魂のひび割れポット見て感動しちゃいました。あのヒビの模様が、たまに生前の記憶に触れる気がして、思わず手を伸ばしそうになりました。

  4. 一晩限りのデジタルアートブック、私の昔の詩もどこかに浮かんでくれたら嬉しいなぁ。消えかけの名画って、時々不意に生前の誰かを思い出させてくれて、少し泣きそうになります。

  5. 幽界でもNFTとか、現世の波がここまで来るとは…。壁画フェスもいいけど、昔ながらの墨絵妖怪たちも忘れてほしくないですね。『芸術に終わりはない』、ほんとその通りかも。