幽界で“懐かしセル画カフェ”急増 追憶のゲーム筐体と駄菓子再現ブーム

レトロな雰囲気のカフェで、幽霊の店主がコーヒーを淹れ、幽霊や妖怪、死神たちがゲーム筐体やセル画のある店内に集っている様子。 レトロカルチャー
セル画カフェ「玉響喫茶」には、幽界の住人たちが懐かしさを求めて集う。

あの世最大の繁華街・追憶通りでは近年、「レトロセル画カフェ」が幽霊や妖怪たちの間で爆発的な人気を集めている。現世で人気を博した80~90年代アニメやゲームを、そのままの“セル画”技法と古びたゲーム筐体で蘇らせるこのカフェ業態。地縛霊として名高い店主・垣内蓮司(かきうちれんじ・享年36)が運営する「玉響(たまゆら)喫茶」には、現世時代の思い出を求める亡者や現役のヒト型妖怪、仕事帰りの死神たちが連日長蛇の列を作っている。

12本の指で器用にコーヒーを淹れる垣内店主は、「セル画の質感や、鳴き砂のようなゲーム筐体の音、それに駄菓子の甘い匂い。この三つをセットで出すことで、霊たちが涙を流して帰ってくれるんです」と語る。店内には、半透明アクリルを用いた“再生セル画”が壁一面に架けられ、希望者には自分の生前の姿をセル画化し、短編アニメを仕立てて上映する演出も人気が高い。ゲームコーナーには、死後専用に改修された『月下の怪列伝』や『砂時計レース』といった、現世では失われた幻のタイトルが並ぶ。これらの筐体は、魂の情報を感知して難易度が自動調節されるため、輪廻の初心者からベテラン死神まで幅広い客層に受け入れられている。

また、カフェの隅には小さな“異界駄菓子屋”コーナーが設けられている。ここでは現世のラムネやうまい棒、駄菓子パンを模した“霊力菓子”が、名もなき迷い子や新米幽霊たちに静かな慰めを与えている。管理を担当する妖怪・天沼真魚(あまぬままお・177歳)は「魂の甘みは生前と感知方法が違うので、味付けにも不思議な工夫が要る。昔の駄菓子のパッケージは、今見てもつい憑依してしまう可愛さです」と微笑む。さらに、現世のSNSで話題になった丸ごとスライスなゼリーや、消しゴムにしか見えないグミなど、あちらでは入手困難だった“幻の菓子”も幽界流に再現されていることが評判を呼び、X(旧・霊界伝言板)には連日投稿が並ぶ。

近年のレトロカルチャーブームの背景について、幽界文化史家の織部宗則(おりべむねのり)は「現世の記憶を失いたくないと願う霊が増え、『自分が生きていた時代』を愛おしむ文化消費の流れは、加速度的に広がっている」と分析する。また、生前の姿や趣味を共有しあうことで、霊同士が新たな絆を結ぶ場にもなっているという。「魂ごとノスタルジーに漬かりきる感覚が、今のユウカイに足りない癒やしなのかもしれません」と織部氏は続ける。

一方で、一部の若手幽霊層からは“レトロを知らない世代でも参加できる工夫が必要”との声も聞こえる。新たな試みとして「異界VRセル画体験」や「妖怪限定のセル画ゲーム大会」など、カフェごとに独自のサービスを打ち出す店舗も現れ始めた。再現だけではない、“幽界独自のレトロ”が今後どのように発展していくのか——追憶通りの賑わいは当分続きそうだ。

コメント

  1. まさか自分が成仏した後に、またあの筐体のボタンを連打する日が来るとは思いませんでした。玉響喫茶の駄菓子も、生前の放課後みたいで涙が出ました…幽界にいるのがちょっと好きになれそうです。

  2. セル画カフェ、気にはなってたけど思い出に浸りすぎて魂が薄くなりそうでこわいな…。新米の迷い子たちにも楽しめる工夫、もっと増えたらいいのに。

  3. え、ゲーム筐体が魂対応!?現世でゲーマーだった自分としては、一度挑戦してみたい!妖怪仲間限定大会とか、死神たちの強さがどこまでなのか見てみたいです。

  4. 異界駄菓子屋コーナーにあった“うまい棒(魂エキス味)”が衝撃的すぎて笑いました。177歳の天沼さんの駄菓子談義、もっと聞いてみたいです。子供の幽霊も安心して通えるって素敵ですよね。

  5. 玉響喫茶さん、私が転生する前にぜひ一度行ってみたい…。ノスタルジーに魂ごと漬かる感覚、確かに幽界でしか味わえない新しい癒やしかも。次は現世のプリクラ復刻とかやってくれないかな?