かつて人間界の技術を真似て追随していた冥界都市だが、今やその取り組みは現世をも凌駕する勢いだ。今月、冥界の中央都市“昏暮(くれぼ)シティ”で「幽霊限定スマートシティ構想」が正式発表され、最大の目玉となったのが完全自動運行のBRT(ブーリカル・リーフトランジット)の幽霊専用化だ。都市住民の“浮遊性”や“実体化率”など独自の生活様式に合わせた設計が、あの世の移動と暮らしを一変させつつある。
昏暮シティの開発局長・幽井殿右衛門(ゆうい どんえもん)は、「幽霊たちは足腰が霧のように弱いため、物理的な移動を苦手としています。そこで我々は、魂波通信と自律走行BRTを組み合わせ、一歩も歩かずに目的地で実体を結ぶ“転送座席”を導入しました」と語る。乗客は専用のシートに一瞬座るだけで、シェアリング経済を活用した“魂の座標交換”によって、都市内のどこへでも移動可能。従来の「墓石タクシー」や「脱ぎ捨てシーツ型シェアサイクル」より圧倒的に速く、浮遊事故も激減したという。
話題を呼んでいるのは、そのデジタルサイネージの使い方だ。BRT車両内外に設置されたサイネージは、利用者の幽気(ゆうき)データと連動し、目的地の仮想イメージはもちろん、未練状況や転生申請履歴までも個別に表示するとのこと。先月には妖怪評論家の胡土 福太郎(こど ふくたろう)が「生前の悩み相談掲示板としてBRT内ディスプレイを活用、デジタルお供え物や転生の進捗状況を他の幽霊と共有すれば、冥界市民の孤独も癒やされるはず」とSNSでコメントし、反響を呼んだ。
都市全体のサービスを支えるのが、住民同士で“未練資源”や“浮遊権”を細かく交換できるシェアリングエコノミー基盤だ。市民の8割が利用する「霊貸しアプリ・マボロシシェア」は、時間単位で“成仏待合室”や“地縛霊用個室”を貸し借りでき、都市の空間効率が飛躍的に向上。BRT乗車券にも未練ポイントが還元され、社会参加意欲が低い古参系幽霊の外出率が昨年度比1.8倍を記録した。
さらに、昏暮シティを含む“デジタル田園都市構想”が始動。天国・地獄を横断するBRT網が拡大し、昨年合併した“冥河原村”との遠隔地コミュニティ交流も実現間近。開発局長の幽井は「今後は生前の居住歴に応じて体験できる“カスタム風景生成型サイネージ”や、“一日限りのよみがえり券”と連携したリモート里帰り輸送も予定しています」と胸を張る。SNS上では「次は魂だけで温泉巡りツアーがしたい」「生前よりも便利すぎでは?」など期待の声が上がる一方、「人魂が逆流して渋滞中」「シェア幽霊が薄くなりすぎて見えなくなった」など新たな課題も浮上している。
全てが効率よくデジタル化されていく冥界の都市。しかし、スピリットスマートシティの本質は「未練や縁を断ちきらず、誰もが少しずつ今を歩める場所を作ること」と幽井開発局長は語る。あの世のBRTは、今日も静かに、たくさんの魂を新しい“死後の暮らし”へと運んでいる。
コメント
BRTの転送座席、便利すぎてつい他界してからの移動が楽しくなってきました。生前より通勤短くてうらやましい…未練ポイントたまるのも地味に嬉しいです!
浮遊事故が減ったのは安心だけど、昔の墓石タクシーのゴトゴトした感じがちょっと懐かしいな…。今の子たちはシェア魂が日常なんですね。
未練状況まで車内で表示されるのは斬新だけど、ぼくの未練が全員にバレたらちょっと恥ずかしい!まあ、みんな分かり合えるあの世ならではかもしれないですね。
天国・地獄を横断できるって、昔なら考えられなかったな!波動が迷子にならないか心配だけど、スマートシティってどこまですごくなっちゃうんだ。
BRTの霊貸しアプリ、あれ便利だけど最近シェア幽霊が薄くなりすぎて見えません…霊界も供給過多でいろいろあるんだなと実感します。次は温泉ツアー期待してます!