天狗書房、伝説の絶版書復刻プロジェクト失敗 支援者からため息 “異界クラウドファンディング”の限界浮き彫りに

夕暮れ時の古書店で、天狗姿の店主が古びた書物を丁寧に扱う様子。 クラウドファンディング
復刻を目指した「天狗書房」の一角には、幻の書物への想いが今も息づいている。

異界町商店通りの一角で120年以上続く老舗古書店「天狗書房」が仕掛けたクラウドファンディング企画、伝説の“飛び散る経典”復刻計画が、このたび目標達成に至らず終了した。現世とあの世の読書家・妖怪ファンから大きな注目を集めていたが、惜しくも2割強の達成率にとどまり、支援者たちには戸惑いと落胆が広がっている。

このプロジェクトは、かつて天狗界に伝わる幻の書『風切り双書~消えた頁を求めて~』を現代に蘇らせることを目指して4月に立ち上げられたもの。プロジェクトオーナーは4代目店主、烏天狗の馬場赤羽根(ばば・あかばね/162歳)。199年ほど前に絶版となり、現存する3冊はいずれも呪いの蒸し焼き状態。通常営業の傍ら、分解・再編纂・復刻作業を進めてきたが、制作費や厄除けインク代など予算が膨れ上がり、一般書店の2倍超の調達額を目指さざるを得なかったのが苦戦の一因となった。

目玉となった特典(リターン)は、『風切り双書』の限定復刻版のほか、“天狗の羽根しおりセット”や“落下耐性強化呪文カード”、“天狗の台風読書会”への年間サブスクリプション招待券など。だが支援者である影法師研究家・船山雷司(ふなやま・らいじ/享年56)は「異界のリターンは面白いが、実物が雲の上に留まるリスクについての説明が不足していた」とSNSで指摘。特典発送時期も曖昧なままで、懸念が広がった。

加えて、あの世新聞編集部の妖狐・尾白桜(おじろ・さくら)は「ストーリー性重視のプロジェクトだったが、製作過程の透明性や支援者との連絡頻度が現世水準に届かなかった」と分析する。妖怪業界ではクラウドファンディングが定着しつつあるものの、資金調達後の情報発信やトラブル時の対応力に著しい差が見られ、信頼構築のノウハウ不足が浮き彫りになった。

一方で、現世と異界をつなぐ書籍文化の意義や、絶版書復刻運動そのものの価値を評価する声も多い。冥界ライブラリー評議会は今回の一件について「失敗は残念だが、挑戦そのものが新たな礎となる」とコメント。馬場赤羽根店主は「支援者への感謝とともに、今後は低予算・少部数でも直接寄贈という形で幻の書の灯を繋げたい」と語る。来季には、小規模向けサブスク制による“書店おためし幽現パス”の試験運用も計画中だという。クラウドファンディングを巡る異界ビジネスの成否と課題、そして古書に込められた物語は、形は違えどこれからも幽けき夜風にページをめくり続ける。

コメント

  1. 長く絶版になっていた『風切り双書』、いつか手に取れると期待してたから残念……。でもあの世でもクラファンが難しいのは世知辛いね。次はぜひ、幽界サロンとかでもっと宣伝してほしい。

  2. いやはや、厄除けインクの高騰は知ってたが、これほど予算が膨れ上がるとは予想外。天狗書房のガッツには敬意を表するが、リターン説明が曖昧だったのは幽界クラファンあるある。今後に期待したい。

  3. 台風読書会には正直ワクワクしてたのに!支援したけど雲の上に消えた…。でも、こういう失敗も異界の文化が現世風に進化していく途中なんだろうと感じます。書にこめられた想いは、私たち消えかけの影にも届くはず。

  4. 昔は口伝だけで本が広まってたし、こうして書を蘇らせたいと思うだけでも素敵なことじゃ。結果は残念だったが、いつか小部数でも現物を拝みたいもんじゃ。

  5. クラウドファンディングも成仏しきれず消えるプロジェクトが多いねえ。リターン目当てに転生してきたのに…また来世でチャレンジしてほしい。天狗書房さん、諦めないで!