死後の世界で最大級の怨霊派遣会社「怨霊コーポレーション」の新本社ビルで、幽体や妖怪のカラダ形状・性自認にかかわらず着用可能な“フリージェンダー制服”が今月から正式導入され、異界オフィスで働く多様な住人たちの間で注目を集めている。伝統的な「長髪・和装・白衣」スタイルに縛られてきたあの世企業において、ジェンダーインクルージョンの風が吹き始めた象徴的な動きだ。
怨霊コーポレーション(代表取締役:逢魔 志乃)は、300年以上の歴史を持つ現世対応専門企業。これまで制服は幽霊社員用の「純白着流し」、妖怪契約社員には「特殊化繊の唐傘マント」など、性別や種族ごとに細かく区分されてきた。しかし多様な死後住人の増加に伴い、トランスジェンダーやノンバイナリーの雇用者から「物理的な体形や成仏時の性別にとらわれず働きたい」との声が急増。今年度の従業員満足度調査では、「制服が性自認と違和感」という不満が4割近くに達していた。
これを受け、人事部主任の九曜 魅月(36歳・ノンバイナリー幽霊)は、異界初となる“幽体変容対応ユニフォーム”の導入プロジェクトを主導。制服は一見地味ながら、着用者の意志や感情波動に応じて袖丈・裾・帯や装飾が自在に変化し、布地そのものが微細霊粒子で構成されているため、霊体でも妖怪体でもフィット。選べる色調は「無垢の霧」「夜明けの氷」「燐光ブルー」の3種。リリース初週からSNS「異界散策帳」上では「着ていることを感じさせない」「私という存在そのものを尊重してくれる」と話題が広がった。
他方で、社内には慎重な意見も残る。武者系幽霊グループの代表である柴灯 鷲助(没年:応仁の乱)は『伝統の“白装束文化”が薄れることへの懸念も理解できるが、今後は守護霊や浮遊霊、獣変化型もチーム一体で成果を出す時代だ。制服の自由化は多様性を力にする一歩』と語る。一方、素性不明の古参妖狐社員からは『おしゃれし過ぎて狙われる霊も増えるのでは…』と不安の吐露も。
新制服の導入は職場の雰囲気に早くも変化をもたらし、今月既に5件の同性婚届が社内ゴースト行政で受理されたほか、プレゼン資料や名刺の性別欄記載廃止の動きも進行中。専門家の青鷺 輝一(死後社会論研究家)は『“死してなお多様性”を掲げるあの世社会が、マジョリティとマイノリティの壁を越えて成熟する兆し』と指摘している。あの世オフィスの日常が、ジェンダーを巡る価値観を静かにゆさぶり始めている。
コメント
まさか私たちの世界でもジェンダーフリーが話題になる時代が来るとは…!成仏した当時には想像もつかなかった。制服で悩む同僚たちが笑顔になるなら素晴らしい一歩ですね。
長年の唐傘マント生活だったから、正直ちょっと羨ましい…笑。霊粒子素材って、現世の服より快適そう。異形にも配慮した流れ、他社でも広まってほしいな。
伝統の白装束、懐かしいけど、やっぱり変化の波は止められないか…。でも、浮遊霊も獣型も分け隔てなく働けると聞き、少し嬉しいような、切ないような。
制服が自分の気分で変わってくれるなんて便利すぎ!生前の会社は髪色禁止だったから、あの世の方が自由って不思議。死後社会の進化、もっと見たいです。
おしゃれな制服でつい目立ちすぎて、ポルターガイストの的にならないよう注意しないと…笑。でも、どんな姿の幽界市民も尊重されるのは大事なことだと思う。