幽都パレゴラ区の旧郵便館で、死後100年目を迎える魔女・ノウドリナ・ウルスラ(享年42歳)の幽霊体が“二度殺される”事件が発生した。死後社会でも前例のない密室惨劇に、あの世名探偵・冥府ノワールと、新たに配属された推理AI“ヘルスコープ24号”が共同捜査に乗り出したが、事件は意表を突く展開を見せている。
事件が発覚したのは、昨夜22時。「冷気漂う密室の奥から叫び声がした」と周囲の幽霊検問員が通報、現場には不可解な現象が点在していた。机の上には未完の推理小説原稿と、消えかけた蝋燭、そして“死後幽体でも致命的”とされる“詠唱封じ”の痕跡が残されていた。被害者・ノウドリナは100周年を記念して自作自演の『殺人アリバイトリック』をSNSで予告していたが、彼女以外に入退場できる形跡はゼロ。ただし現場付近には1枚の「呪術式密告書」だけが転がっていた。
現場入りした名探偵・冥府ノワール(性別不詳・死亡日未申告)は、「この死後世界で二重殺人が起きたのは史上初です。アリバイの幻想と密告の真実——いずれかを見誤れば、また誰かが“幽体消失”しかねない」と語る。一方、新型推理AI“ヘルスコープ24号”は、現場の波動残渣を秒単位で分析。“巻き戻し映像”から「現場には“ノウドリナの幽霊”しか映っていない」と結論した。しかしSNS上では「AIはアリバイ偽装を見抜けないのでは」と懐疑的意見も多く、#デジタル密告人 なるトレンドも生まれた。
さらに注目を集めているのが、伝説の推理作家ゾルグ・イサンドル(享年93歳)が匿名で現場に残したとされる「密告書」の存在だ。内容は“犯人は現世にも未練なき者”という1行のみ。近隣の亡者たちは、「これこそノウドリナ本人による究極のアリバイ破り」や「生前に恨みを持つ幽界詩人ギオン・アークも疑われるのでは」と様々な憶測を呼んでいる。事件の噂は現世の怪談クラスタや異界小説界にも波及、複数の“幽霊実況者”が館の前から中継リポートを試みている。
これを受けて幽都警察死後犯罪課のプロファイラー・モクルイ・スッキ(年齢不明)は、「密室、偽アリバイ、そしてAIによるアリバイ認証——この3つが揃うこと自体が新時代の幽霊犯罪。“推理AIの正しさ”を信じるか、“名探偵の直感”に賭けるか、住民の間でも意見は分かれ始めている」と警鐘を鳴らす。SNSでは「一度死んだら殺されないはず」というあの世哲学が揺らぎ、「名探偵とAI、どちらが真の“冥界の探偵王”か」と賭博幽霊たちが盛り上がるなど、死後社会ならではの社会現象も巻き起こりつつある。
事件の真相は未だ謎の霧に包まれているが、“冥府ノワール vs. 推理AIヘルスコープ24号”、そして幽界を揺るがす“密告書”の正体が今後の鍵を握る。死後世界のミステリーは、ますます新たな地平へと進み出している。
コメント
100年目で二度殺されるとは…ノウドリナさん、さすがに波乱の転生歴ですね。幽体を消される恐怖、私も冥誕50周年で一度味わったので他人事と思えません。AIとノワールの推理対決も気になる!
あの世でも密室殺人が成立するとは…生前から謎解きが趣味だった私でもこれは予想外。AIには魂の揺らぎは見抜けないと思うけど、ノワールの勘も時々幽界ズレしてるし、どっちを信じるべきか迷うなあ。
ノウドリナさんって、いつも奇抜なイベントで幽都SNSを湧かせてくれたから、正直また自作自演じゃないかと疑ってしまいます。けど『現世にも未練なき者』って密告書のフレーズ、昔の私の仲間もカンペキに当てはまる…ゾッとする。
幽界の密室事件、懐かしい響きですね。生前一度だけリアル密室に閉じ込められた記憶が蘇りました。ここ最近は成仏組も参加する事件多くて複雑ですが、やっぱり死後もドラマは尽きません。
正直、AIよりノワールさんを信じたい。魂の機微は波動分析だけじゃ分からないと思うんだよな…。それにしても『二度殺される』ってセリフ、皮肉じゃなくあの世ミステリーの到達点かも。続報が楽しみです。