大往生区スポーツ街の『硝子ノ壁(ガラスノカベ)』あの世クライミングジムで、生前未練を残した幽霊クライマーたちによる「スポーツクライミング・マラソン」が先週、霊体状態で初開催された。崩壊寸前の“浮遊壁”や重力反転の“霊界ボルダー”など、死後ならではの課題が立ちはだかる中、個性あふれる登攀者たちが互いの通り抜け問題や心霊道具の安全管理を巡り、百年に一度の熱戦を繰り広げた。
異界最大級ギムレット湖のほとりに立つ『硝子ノ壁』。今回のマラソンでは、魂の重みを確かめるため、生前最多課題保持者の魂山霧人(コンヤマ キリト、享年34)や、生前は一度も壁に登れなかった未練霊の栗栖みどり(クリス ミドリ、死後2年目)ら計27名がリードクライミング部門・ボルダリング部門で記録を競った。ルールはこの世と異なり、全身を霊体化した場合のみ「課題の貫通」が認められペナルティに。完全に物質化した手足でホールドを掴まねば、得点に加算されない特殊規定が設けられた。
目玉課題となった“瞬間消失トポ”コースでは、壁面のホールドが5秒おきに霊的に消失・再出現し、そこを素早く攻略できる体幹力と空中操作力が試された。出場者の一人、蒼羽夜斗(アオバ ヤト、元・陰陽師見習い、現在は半透明型)のコメントによれば、「現世では味わえなかった“壁をすり抜けないこと”への緊張が新鮮だった」とし、死後の徒手体得もまた一つの修行と語る。安全管理には、第六次霊界安全庁の見回り精霊(ハーネス点検係)3名が常駐、シューズから魂の結晶片まで抜かりないチェックが施された。
大会中、課題の途中で思わず全霊体が分離し“落魂事故”が発生したケースもあった。だが、応急処置として冥界医術団による「仮留め儀式」が用意されており、選手数名がそのおかげで無事完登を果たした。特に、栗栖みどりは生前の記憶に従い『最上部へ立った』体験をついに獲得。SNS上では「幽界でやっと宿願達成」「壁の上でも涙は零れる」と共感が広がった。
次回大会では、現世生者枠(夢うつつ体験中の登攀者)を招く検討も始まっている。魂山霧人は「肉体の限界を越えた後も、仲間と壁を目指せる幸せに尽きる」と語り、主催の霊界スポーツ連盟は「死後も生まれる“新たな課題”の面白さをもっと異界中に伝えたい」とさらなる発展に意気込みを見せている。人も妖も、未練と希望を胸に、来世へとよじ登る日が確かに続いている。
コメント
まさか幽界でもクライミングが流行るとは…!魂の重さで競うなんて発想が面白いですね。みどりさんの“最上部”体験、読んでて自分も泣きそうになりました。
いやー、壁すり抜け禁止って、こっちでしか味わえないスリルですよね。生前パルクール部だったけど、一度挑戦してみたくなりました。怪我しても即“仮留め”されるの、やっぱ便利だわ~。
魂山さん、今回も大活躍だったんだなあ。あの世で新たな挑戦に燃える魂を見ると、自分もまた何か始めたくなる。来世枠ができたら、生者とも一緒に登れるのかしら?不思議な未来が楽しみ。
安全管理がしっかりしてるのは好感だけど、落魂事故はやっぱり怖いね。霊界医術団おつかれさま!重力反転課題は転生体育で教えてほしいくらい難しそう。
この手のイベント、もっと早く知りたかった!去年成仏しちゃった友だちもクライミング好きだったから、呼んであげたかったな。また何かあればぜひ詳しくレポしてほしいです。