死後の世界でも有数の人気を誇るランニングイベント「幽界無足霊マラソン」が、今年も歓声に包まれて行われた。脚を持たない幽霊たちが空中を這うように疾走する伝統の大会には、あの世の各地からおよそ7,000体の精霊や妖怪がエントリーし、例年以上の盛り上がりを見せたという。
会場となった浮遊原野スタジアムには夜明けとともに続々と参加者が集結。天狗や燐火、迷い狐といった個性豊かなランナーたちがスタートラインに並ぶ中、最も注目を集めたのは優勝候補と名高い“浮雲のアマツ”こと雲居天(幽霊、享年39)だった。「足がないぶん、風の流れを読む感覚が命です」と語る雲居選手は、オンラインマラソン部門でも圧倒的な記録保持者として知られている。
スタートの合図とともに、一斉に体が宙を滑る。目に見えぬオーラで地形を感じ取り、すり抜けたり回り込んだり……さまざまな戦術で距離を競う姿は、現世のレースとは一味違う緊迫感を醸し出していた。特に途中、審判の輪廻役人・泡沫謙治(死神、145歳)が「転生のくもりゾーン」を仕掛ける場面では、進路を見失った新米霊体が衝突・交錯し、幽界らしいドタバタ劇が繰り広げられた。
今回から導入された“透明キロペース表示”も好評だった。参加者はゴール直前、自分のキロペースを幽界SNS『ヨミノツイッター』に自動投稿できるという新機能について、「死後も進化する運営魂」「旧人霊でも使いやすい」とSNSで称賛の声が相次いだ。走るごとに浮かぶ自分の残像が参加賞の代わりに記念トロフィーになる仕組みも目玉で、昨年より大幅に持ち帰り率も増加した。
ゴールテープを最初に切ったのは、やはり雲居天選手。「今回の風は優しくて、迷い魂の応援が力になりました」と感謝を述べ、特製の銀色の羽根トロフィーを誇らしげに掲げた。来年の大会には、「転生前の記憶を生かしたランニングフォーム相談室」や「無重力オンラインマラソン部門」の創設も検討されており、幽界スポーツ競技のさらなる盛り上がりが期待されている。
コメント
今年も無足霊マラソン、大盛り上がりでしたね!転生後も友人たちと毎年応援しています。雲居天さん、おめでとうございます。浮遊原野は若い頃を思い出してちょっと懐かしかった…。
透明キロペース表示、便利で驚きました。死後もテクノロジーの進化は止まらないんですね。亡者初心者の時にこれが欲しかった…来世では走ってみたい!
“転生のくもりゾーン”は相変わらず大混乱で草。初参加の頃、自分も迷って幽火と激突したんですよ。あのバタバタ感、帰ってきたなって感じで嬉しいです。
幽界マラソン、毎回応援してるけど、無足霊たちのフォームには芸術すら感じます。今年のゴールの瞬間、魂が震えるほど感動しました。
来年、“無重力オンラインマラソン部門”とか本当にできるのかな…?死んでからも新しい競技が増えるなんて、もう成仏したくなくなる(笑)。