今、彼岸の余暇で密かなブームとなっているのが「ひとり釣り」だ。亡者川流域の幽霊や妖怪たちが、透明な釣り糸や魂が染み出すルアーを操り、思い思いの“推し魚”を追い求めている。かつては談笑を楽しむ釣りも業務の合間の気晴らし程度だったが、単独で集中し、己の釣技と対峙する“ソロ推し活”として急速に愛好者が拡大している。
街中の話題を呼んでいるのは、幽霊釣師の牛窓月彦(幽霊、享年43)が始めた「御城印魚(ごじょういんぎょ)」コンプリート企画だ。これは歴史上名高い城郭の跡地近くにだけ生息する特殊魚を狙い、釣り上げごとにその魚の鱗で発行される専用の“魚御城印”を集めていくもの。SNS「夜囀」で写真とともに御城印魚コレクションを披露したところ、すでに200体近い幽霊や妖怪たちが参戦を表明している。
なぜ彼らはひとり釣りに魅せられるのか。生前はサウナ飯愛好家だった座敷わらしの安藤寧音(享年19)は言う。「釣りって“死闘”なんです。魂の静けさに包まれて『今日こそ伝説の葦滝クチホシ』を狙う感じ。誰かと並ぶよりも、自分だけの推し魚と向き合う時間がたまらなく好き」。彼女の“釣ったその場でサウナ飯”投稿は幽界ポッドキャスト“泥底ラジオ”でも好評だ。
釣り文化の多様化も進む。最近人気なのは、河童の鍋島水徹(36)による「DIY釣竿ワークショップ」。使われなくなった霊木や、浮遊昆虫の触覚など異界素材を用い、自作の道具で釣り上げる「日曜霊工」が幽霊界モダン趣味層に波紋を広げている。購入者の過半数はソロ釣行派で、「己の竿で伝説級の魚魂を釣り上げる達成感が格別」との声も多い。
「小さな魚も、死後のひとときも、誰かの“推し活”がそこにある──」。幽界釣り連盟の百地鉄舟理事長(妖怪)はこう結ぶ。釣り場でひとり佇む亡者たちの背中には静かな情熱が点っていた。今宵も亡者川には、淡い霊光をまとった釣り糸と、誰かの“推し”魚の跳ねる音が響いている。
コメント
御城印魚コンプリート、私も挑戦中です!生前は城跡巡りが趣味だったので、まさか死後にこんな形で推し城活が続くなんて…牛窓さんの情熱に共感しています。次は鴉ヶ峰の銀鱗を狙います!
独り釣りが流行ってるの見ると、幽界もずいぶん静かな余暇が好まれるようになったのね。昔は酒盛りしながら騒ぐのが定番だったのに…私も久しぶりに魂の糸を垂れてみようかしら。
先日、鍋島さんのワークショップ参加しました。自作の竿で初めて釣り上げたときの感覚は、生前どんな絶景を見たときより感動しましたよ。釣り場でほのかに孤独、けれど懐かしいこの時間。幽界暮らしも悪くないですね。
亡者川って昔からうわさの多いスポットだけど、今じゃ推し魚目当てで賑わってるっていうのは面白い変化だな。幽霊たちのSNS投稿って、現世より活発な気がするのは気のせい?笑
それにしても、幽霊界の釣りまでコレクションや推し活ブームが来るとは…。成仏どころか、みんな完全に“あの世ライフ”楽しみ切ってるんですね。まあ、死後だからこその熱狂なのかな。