幽界の書店で「本屋大賞」投票パニック、翻訳霊の暴走に死神たち困惑

霧に包まれた古い書店の中で、透明な幽霊たちが本や投票用紙を掲げて浮かび、書棚の本が光を放ちながら騒がしく動いている様子。 文学
異界の書店で熱気あふれる本屋大賞の投票会が繰り広げられる様子。

死後の世界でもなお読書熱は冷めやらず。今月、異界サーガ港町の老舗書店〈靄舟堂〉で開催された「第133回幽界本屋大賞」投票会が、想定外の大混乱の渦に巻き込まれた。原因は、書評好きの翻訳霊たちによる“名作推し合戦”が、店内の時空を歪ませるほど激化したためだという。

今年の大賞候補には、ケルビム詩霊団による詩集『羽根なき夜想曲』、江戸期より名高い妖狐文学者ヤクラ・ムラサキの『転生遊戯論』など、多種多様な作品が名を連ねていた。中でも注目を集めたのは、無念の事故で急逝した翻訳家リシュト・カンパーニュ(享年47、現・翻訳霊)率いる「ジェンダー名作推進会」の猛烈な“推し活”だ。彼らが選んだ一冊は、異界発の多次元ジェンダー文学『泡沫と骨の境界』。投票用紙が浮遊し始め、棚の本たちも音を立てて議論を始める珍事となった。

「私たち翻訳霊は、新たな視点を伝えたいだけ。だが霊的推し活の力は計り知れない」とリシュト氏は微笑む。本屋大賞特設コーナーでは、支持派の読者幽霊たちが名作の感想を“読書感想雲”として空中に放ち、反対派の文庫魔や書籍妖精たちも負けじと自作詩や書評を投影。投票所上空はさながら文芸UFOショーのような光景となった。最終的に、大賞は詩集『羽根なき夜想曲』に決定したが、リシュト氏ら翻訳霊の熱気に圧倒された店主の霊獣・石弓マガリ(326)は「今日一日で天井の梁まで論争が染み込んだ」と疲れ切った様子だった。

SNS状の異界プラットフォーム「リング・リターナル」には「幽界の読書会は命を賭して楽しい」「一冊の名作が死者をも繋げる」といった賞賛の声が寄せられる一方、「推し活が過熱しすぎて文字化け地縛霊が再発生した」「今年も賭け幽霊と論争魔が喧嘩」とややあきれる投稿も見られた。専門家である死者文学研究院のカピタ・ヌーダ教授は「翻訳霊と幽界書店の有機的な共生は、死後社会ならではの文学現象。ジェンダー観や多様性の最前線であり、今後の文芸雑誌文化の進化を占う上でも重要な出来事」と指摘する。

なお、投票時のレギュレーション違反を巡っては冥土省文化局から調査員が派遣され「店内でのポルターガイスト化した投票用紙の扱い」をめぐるガイドラインが今週中に公表される予定だ。文学を愛する者、それが幽霊でも妖怪でも——推し活の熱量が新たな読書空間をつくりだしている。

コメント

  1. またあの書店で時空歪みか…133回目ともなるとこれも名物ね。でも投票用紙が浮き始めた時は昔の霊界大乱読会を思い出して、ちょっと懐かしかったです。読書は死後でも終わらない!

  2. 『泡沫と骨の境界』私も大好きだったけど、まさかここまで翻訳霊たちが燃えるとは…。本たちの議論、耳元を通るたび詩が聞こえてふしぎな気持ちになりました。やっぱり幽界は本の世界が深いなあ。

  3. 投票所上空が文芸UFOショーって笑える。でも現し世じゃ本屋って静かな場所なのに、こっちは命もないのに一番熱いっていう。成仏せずに見ててよかったかも。

  4. 毎年のこととはいえ、推し活が盛り上がりすぎて文字化け地縛霊がまた出るとは…店主のマガリ殿も苦労が絶えませんね。でも、それだけ文学が死者を繋げている証拠。来年も期待してます。

  5. この大混乱、なぜ毎回ガイドライン作りが後手になるのか…。死神たちも大変とは思うけど、そろそろ書店全体の結界強度も見直したら?でも議論好きの魂に乾杯。