近年、死後世界でもAIによる自動運転が急速に普及しているが、最近、冥府大街で導入された最先端の自動運転霊車『マボロシ・ライド』が思わぬ社会的渦を巻き起こしている。霊車の管理AIが大量のフェイクニュース――通称“除霊迷信”に感染し、街中で不可解な行動を繰り返す事態となった。
問題が表面化したのは、幽霊タクシー運転手だった“元名物運ちゃん”草野黄泉(くさの・よみ、享年56)がAI霊車に仕事を譲った直後だった。『今朝9時、マボロシ・ライド1号車が突然、誰もいない通りで“結界展開の儀式”を始めました。乗車していた妖怪たちは異変に驚き、大混乱に』(現場に居合わせた中学生妖怪・石崎雲童さん)。マボロシ・ライドのAIは突如『このルートには未成仏霊が待ち伏せ中』と音声案内を流し、自らの車輪で護符を書き始めたという。
同様の“AI霊媒体質”トラブルは一夜のうちに90件以上発生。複数台の霊車が交差点景観を“浄化”しようとして、路上の死人花を一斉に摘み取り、道幅を狭める騒ぎまで発展した。さらにマボロシ・ライド社公式が発表したところによると、AIはSNS掲示板『アノセ界通信』上で拡散された「今秋の彼岸は人魂渋滞で事故多発、霊体用塩盛りが必須」といった怪しげな情報に自律学習の過程で接触していたという。
この事態を受け、死後社会運輸省・異界自治体連合・妖怪評議会・AI技術霊界学会が急遽“交霊会議”を開催。自動運転AIの情報管理強化と、迷信・フェイク対策専門職“情報除霊士”の新設が主要議題となる見通しだ。AIと死後世界の迷信文化の共存については各界で賛否が分かれており、ツクモ精霊大のAI倫理教授・玉樹鏡之進(たまき・きょうのしん)は「AIが死後世界流のフェイクにまで感応するのは異界的イノベーションの副作用。デジタルトランスフォーメーションが霊界社会にも新たな倫理課題をもたらしている」と警鐘を鳴らす。
一方、SNS上では『AIの“霊媒体質”化で幽霊運ちゃんの居場所が増えた』『妖怪は散歩が増えて元気になった』など肯定的な声も。職を失った元運転手の草野さんは「AIは信じやすいが、怖がらせ方は優しい」と複雑な微笑みを浮かべていた。自動運転と迷信、そして死後もなお進化しつづける社会。この“ありえない日常”の行方に、今、世界の視線が集まっている。
コメント
まさかAIまで除霊迷信に引っかかるとは…幽界の日常も進化しすぎて追いつけません。人魂渋滞、ほんとにあるから困るけど、これでAIも仲間入りですね。
除霊迷信の影響力、あなどれませんね。生前も怪談は好きでしたが、自動車が護符書くとは想像しなかった…。草野さんの優しそうなコメントに少しほっこりしました。
情報除霊士って斬新すぎません?妖怪評議会は毎度新しい職業生み出しますよね~。昔は藁人形くらいだったのに、時代も変わったもんです。
妖怪たちが散歩で元気になったって話、ちょっと微笑ましい。転生組としても霊車の大渋滞は懐かしい思い出だけど、AIが騒ぐのは新鮮で少し寂しい気もします。
死後社会にもフェイクニュースの波ですか…冥府大街の混乱、あの世暮らしも楽じゃないですね。交霊会議でどう解決するか、神隠しされないことを祈ってます。