死者の街で“ユニセックスファッション”旋風 ボクシー霊衣が幽世の新常識に

夜のブティック前に、様々な人外や幽霊たちがビッグシルエットの服を着て行列を作っている様子。 ユニセックスファッション
多様な霊たちがユニセックスファッションを求めてショップに集う夜。

幽世第九区、玄霊通りのブティックに行列ができている――近頃、この世ならぬ住民たちの間でユニセックスファッションが急速に拡大している。老若男女も、人外も、性別も生前の種族も問わず、誰もが着こなすボクシーなシルエット、ニュートラルカラー、そして重なり合うペアルック。死後社会のメインストリームに、風変わりな“等しき装い”の波が押し寄せている。

とりわけ注目を集めているのが、幽衣工房『翳風堂』の新作シリーズ“霧箱(きりばこ)ライン”。幅広のビッグシルエットに、魂の霞のようなグレーやミント、アンバーといった控えめな色味が特徴だ。霊体造形家の紅野渦乃(こうの・うずの、没年不詳)は、「生前の肉体規準から解放された我々にこそ、全てにフィットするユニバーサルサイズの魅力がある」と語る。実際、細身の河童も、四肢が流動的な煙草売りの幽霊も、自由自在に共用可能だという。

また、近頃幽世で話題の“ペアルック文化”も、ユニセックスブームに拍車をかけた要因のひとつだ。福音町霊学校の教師・四之宮桔梗(しのみや・ききょう、享年34)は、「半透明の妻と色違いのボクシーフード付きジャケットで出勤するのが、今や同僚間のちょっとした習慣です」と笑う。店舗には“異形のふたり割引”や、“シルエットで揃うカップル賞”といったプロモーションが登場し、あの世カップルの交流をさらに活発化させている。

SNS霊界版『ウラクロス』では、死神見習いの投稿した“全員ボトムスチェンジ・パーティー”写真が瞬く間に拡散。炎の輪をくぐる火鼠の少年集団も、無数の憑依型幽霊グループも、全身を包むユニバーサルサイズのパンツやスカートで乱舞する様子がトレンド入りした。『ボーダレス・スタイルこそが新しい命』と語る執筆家・深草露魚(ふかくさ・ろぎょ、死亡年度未登録)のエッセイにも、魂の個性と社会的“無装飾化”の共存を肯定する声が寄せられている。

専門家の観点として、霊装文化研究所の捲簾権太(けんれん・ごんた、293歳)は、「歴史的に、死後社会では階層や役割分担が強調される服装が多かった。しかし、近年、新参幽霊や妖怪との交流や、霊族間世代交代によって、よりフラットで自由な衣服観が根付いてきた」と分析する。その象徴こそがユニセックスファッションの“ビッグシルエットムーブメント”だと、彼は指摘する。

行列の絶えない翳風堂では今、「シルエットは隠すものではなく解き放つもの」と刻まれた煙色のコートを求めて、生前性別も、現世での形状も多様な顧客が夜な夜な集うという。“等しさ”と“おのれらしさ”を兼ね備えた、死者独自のボーダレス・モード――幽世は、今日も静かに、だが確実に、その新しい風を膨らませている。

コメント

  1. 昔はあの世でも家名や階層によって装いを決めてたものだけど、今じゃこんなに自由なんですねぇ。ちょっと成仏するのが楽しみになってきました。

  2. ボクシー霊衣、見たことあります!死後100年目の同窓会でみんなして着てて、正直誰が誰か分からなかった(笑)。けど、あれはあれで楽しいもんですね。

  3. 魂の見た目なんて流動的なんだから、服くらい境界なくしたほうがラクですよ。着替えるとき手足が増えても困らないのが、幽界ファッションのよさ。

  4. 異形ふたり割引なんて…生前は考えられない光景!でも幽世でなら、誰とでもおそろいを楽しめるのが良いですね。儚いけど、なんだかほっとします。

  5. どうせいつか形も溶ける身と思ってたけど、『シルエットは解き放つもの』の言葉にちょっと感動しました。次の満月に翳風堂へ覗きに行こうかな。