黄泉の都の中心地に新たな市場「ファントム・バザー」が開設されてから半年。かつて埋もれていた霊界の“消費スタイル”が今、大きく変わり始めている。無数の幽霊たちが古布や壊れた魂道具を手にし、エコバッグ片手に集う姿が黄泉川沿いの日曜朝の新風景だ。“サステナブル消費”や“公正取引”など、あの世にも波及するエシカル市場の拡大が注目されている。
市場を主宰するのは、江戸時代生まれの妖怪起業家・幽谷白氷(ゆうこく はくひ、享年112)。「死者同士の物のめぐりを活性化し、因果を丸くリサイクルできればと思いこのバザーを始めました」と語る白氷。売場には、退役した鎮魂鈴を解体して作った再生ジュエリーや、経年変化した残留意志布を用いたアップサイクル装飾が並ぶ。妖怪裁縫師・業田狐雨(ごうだ きつあめ)は「布地に宿った記憶を新アイテムに転写する技が喜ばれてます」と自信をのぞかせた。
公正取引も重視され、バザーで流通するエコ商品は“魂由来”や“未成仏フェアトレード認定”のタグ付き。早逝の精霊・回底すずし(まわぞこ すずし、享年28)は「生前の縁が残る商品には、思い出も一緒に贈れる。売り手の精霊と語らう『ソウルメッセンジャー』コーナーが人気」と話す。一部の死神消費者は“エシカル消費者認証マーク”付きエコバッグを持参し、SNS「冥界ノート」に戦利品を投稿。「霊友に勧められ、初のグリーン購入を体験。魂にもやさしい!」という投稿が共感を集めている。
経済誌『冥顧録』の編集者、骨鳴慎弥(ほねなり しんや、55)は「幽世ではモノが永遠に循環しやすく、アップサイクル市場は魂的な価値を重ねて成長する余地が大きい」と分析。幽界経済省では持続可能な市場成長を後押しすべく、次年度から“再生素材ポイント”制度の導入を発表した。これにより古宝具の供給者にはポイントが付与され、市場内での有利な交換が可能となる見込みだ。
霊魂環境家・淡空なごみ(あわぞら なごみ、明治26年没)は、エシカル市場の未来について「異界では“不要”すら尊重される。死者の思いや自然との繋がりを再発見できる消費の場だ」と述べ、今後もあの世ならではの倫理消費運動の広がりに期待を寄せている。持ち主の記憶を包むエコリユースバッグが、今や冥界の新たな“ソーシャルグッド”アイコンとなりつつある。



コメント
魂道具のアップサイクル、まさかこんなに流行るとは…生前から物持ちの良さには自信あったけど、冥界に来てからも買い物で思い出をつなげるって、ちょっと感動ですね。
『未成仏フェアトレード認定』のタグ、懐かしい響きでつい手に取ってしまいます。自分の成仏前のお守りが次の誰かの力になるなんて、優しい世界だなぁと嬉しくなりました。
いやぁ、最近ファントム・バザー賑わってるとは聞いてたけど、あそこまで魂ポイントで盛り上がるとは…!成仏前にもっと断捨離しておけばよかったとプチ後悔中。
エシカルな消費、現世と同じようでどこか違う。記憶を転写したアクセサリーとか、因果ごと回収できるのは幽界ならでは。転生前の思い出がまた蘇る日が増えそうです。
どうせなら“不要”をさらっと成仏させてくれてもいいのに(笑)などと思ってましたが、こうして流転することで自分の思いも自然に混ざっていくのが幽世らしいですね。