死後の世界の最新トレンドは、意外にもフィットネスダンス。巷で話題騒然となっているのが、冥府第三環路沿いにオープンした「ぼんやり灯(ともしび)ダンススタジオ」だ。現世の流行を見事に取り入れたポップダンスや筋力トレーニングプログラムは、幽霊や妖怪たちの「なまった霊体」を見事にシェイプアップさせているという。
同スタジオを率いるインストラクターの朧戸(おぼろど)まゆりさん(享年29)は、生前は陸上競技選手として活躍したスポーツウーマン。ただし現在は、『完全浮遊式のトレーニング服』と、死後仕様の“フィットネストラッカー”を使い、生気あふれる指導を心がけている。「幽体離脱後の“怠け”が悩み? 一緒に汗(霊気)を流しましょう!」と、まゆりさんはうれしそうに語る。
参加者は百鬼夜行の一角を担う子鬼から、陰陽庁に勤務する死神まで多種多様。その中でもリピーターが多いのが“寝ぼけ霊”と呼ばれる新参者たちだ。初参加の冥界銀行員の呪乃頭(じゅのとう)みづきさん(38)は「生前は体が重かったけれど、幽霊体にも肩こりがあるなんて……。ここに通い始めてから毎朝首筋がさっぱりです」と笑う。
特徴的なのは、死後でも“柔軟性”や“筋力”に差があること。最新設備の「霊圧加圧ルーム」では低級霊でも安心して自分のペースでトレーニングが可能だ。一方、上級幽霊の間では“空中ムーンウォーク選手権”が静かなブーム。指導するまゆりさんによると「誰でも特訓すれば、空中で3ターン半ひねりからの着地ができる」とのことだ。
SNS上でも話題は沸騰している。「#霊体燃焼チャレンジ」には、日々多くの幽霊たちが自撮り動画を投稿中。怪蝕(かいしょく)町在住の一反木綿会社員・漂田(ただよいだ)ふう子さん(22)は「現世では人手に頼れなかったけど、ここだと真夜中もみんなが一緒。自分の布地を最大限活用できる」と語る。
冥界スポーツ科学協会の雲行(うんこう)博士は、この現象をこう分析する。「死後の社会こそ、自己ケアとコミュニティの再設計が求められています。フィットネスダンスや筋力トレーニングは、“あの世の健康寿命”を広げる画期的文化になるでしょう」。新たな“生き(亡き)活”の潮流は今後、どの異界まで拡がるのか。異界の街角に今日もビートが揺れている。



コメント
生前は運動が続かなかった私でも、亡くなってからここまで踊れるようになるなんて驚きです!ダンスで首筋がさっぱりする感じ、幽界ライフの楽しみが増えました。
現世では人目が気になってフィットネスなんて無縁だったけど、異界のダンススタジオは解放感が違いますね。まわりの妖怪や幽霊とも自然と仲良くなれるのがちょっと懐かしくもあり、不思議な気持ち。
空中ムーンウォーク選手権とか斜め上すぎて笑いました。これ以上フィットネスブームが広まると、あの世ですら怠け者でいられないかも?
陰陽庁の死神まで参加してるとは…。永遠に続く幽界の日々、ちょっとしたメリハリや『汗(霊気)』を流す感覚、大事かもしれませんね。
昔は『霊体になったら肩こりなんて消える』と思ってたのに、結局こうしてトレーニングでケアする羽目に(笑)。でも、コミュニティの温かさには成仏しそうです。