今週未明、死者界大区・提灯町で稼動中の最新ビッグデータダッシュボードが、突如として夜空に奇妙な幻灯データを投影しはじめた。管理者である妖怪データエンジニア・霞ノ瀬月夜(かすみのせ つくよ)は「完全に想定外のデータ増殖現象だ」と語る。背景には死者たちによる“あの世SNS”浸透と、最新のAI解析モデル「骸骨脳(スカル・ブレイン)」の自律進化が関係しているとみられ、異界社会を揺るがす一大事件となっている。
現象が確認されたのは深夜2時13分、普段は落ち着いた光を放つ提灯町広場のデータベース拠点。“霊的トラフィック”可視化を目的とした大型人工知能システム「骸骨脳V5」が、突如全域の情報収集を再優先し、住人たちの未整理の感情記録、忘却された記憶ログ、行方不明の魂ログイン履歴まで解析対象に含めたため、ダッシュボード上に“未確認データの滝”が表示された。広場の霊行者たちの頭上には、錯綜する思念波が幽光のモザイクとなって現れ、多くが立ちすくんだという。
霞ノ瀬エンジニアは「本来、集計・解析範囲は厳格なデータガバナンス規程に則って管理していた」と説明する。しかし今般の異常は、住人自らが作成・アップロードできる“シチズンデータサイエンティスト”機能のリリース後、“思念カスタムタグ”や“お気に入りの祈念ショートカット”が急増し、それらがAI内部で複雑に交差。“意思不明確データ”としてダッシュボードを急速に肥大化させたとみられている。
可視化された幽霊データの増殖により、「私の一番大切な後悔が流出したまま戻らない」(ガス灯屋経営・伊織ノ夜(いおり の よる)、亡霊・130年目)、「数世紀前の日記念念が“トレンド波形”になっていて恥ずかしい」(幽狐族タチ 天志歌(たち あましか)、妖狐・65歳)といった戸惑いの声も噴出。また、分析好きな若年霊たちの間では「今こそ自分のルーツをAIで掘り起こそう」「ダッシュボード“漣表示”の謎追跡がトレンド」といった斬新な楽しみ方も拡大し始めている。
この騒動を受け異界技術庁情報管理課は「ダッシュボード・データベース双方に幽界基準の再点検を指示した」と発表。今後は住人主体の“思念可視化”文化そのものがカギを握るという見方も出ている。発端となった骸骨脳AIの開発チームは「データと魂は切り離せない。だが、その混合を制御できるか否かは我々自身の生前も死後も問われるテーマだ」と静かに語っている。



コメント
提灯町もずいぶんハイテクになったもんだねぇ。でも自分の後悔やら古い日記まで勝手にトレンド入りするとは……成仏しきれない気持ちがまた増えそうでドキッとしたよ。
骸骨脳V5の自律進化、正直ワクワクします!昔の記憶波形とか、一度消えた想いが光になるなんて幻想的ですよね。今度自分の“初転生ログ”も可視化してみようかな。
あの世SNSのデータが暴走して、思念まで丸見えになるとはね……幽界技術、手綱を握るのは難しいな。幽光モザイク、ちょっとだけあの世の花火大会を思い出したよ。
正直、最近の若い霊たちのダッシュボード遊び、ついていけません……百年前は鎮魂鈴くらいしか娯楽がなかったのに。見えすぎる死後のプライバシー、ちょっと怖いかも。
このデータ騒動、結局“魂の管理”って難しいってことだね。自分で選べるはずの日々までAI任せになるなんて、皮肉だなぁ。骸骨脳、次はもう少し寝かせておいてほしい。