死後の世界でも情報環境の混乱が深刻化している。あの世を統治する閻魔庁はこのたび、亡霊市民間に急増する誤情報や疑似科学記事への対策として、“ファントム・フェイク自動検出部門”を新設したと発表した。組織の骨子や検出システムは独自開発され、幽界SNSや霊界ポータルサイトでの情報流通に大きな影響を及ぼすとみられる。
背景には、近年あの世のネット空間で蔓延する“霊的バイアス”の存在がある。真実とされていた転生速報や新型お祓い術の口コミ、さらには「魂の劣化を防ぐ最新オーブ療法」などの疑似科学情報が口コミで広がり、未確認のまま恐怖や混乱が増幅する現象が相次いだ。ファクトチェック活動家・佐渡嶋マユリ氏(精霊、310年目)は「信憑性チェックがなされずに、近隣世界を巻き込むパニックを誘発する危険がある」と懸念を表明。生前より博識と評判だった閻魔庁主任・古賀撃幽氏は「人魂バイアスを検知し適正に緩和することが社会安定に不可欠」と強調した。
新部門の中核となる自動検出システムは、霊的波動と念情報、さらにかつての生者データベースを参照し、配信予定の内容と既知の事実波動とを高速照合する仕組み。地方都市・芥子巷(アクタノゴオリ)で4月に発生した科学怪談“大根おろしで一週間若返る”騒動では、誤情報の元ネタが40分で特定され拡散が制止された。開発主任・橘ウグイス霊(死者歴112年)は「チェックリスト型のギミックを導入し、誤った念文やバイアステストも組み込んだ。自動判定と幽霊アナリストの協働で異常値をはじき出せる」と胸を張る。
一方、霊界SNS“ミッドナイト掲示板”では、「自由な魂の表現が妨げられるのでは」といった懸念も根強い。著名な都市妖怪ジャーナリスト、花立ムクロ氏(年齢不詳)は「真贋判定を誰が下すかが最大の論点。多様な死後観がある社会では、一刀両断できないものも多い」と慎重姿勢を見せる。また詐称霊や情報操作を図る死神系アカウントも増加しており、“対AIばかしん魂”による捏造ニュース投稿に関しては法的整理も求められている。
閻魔庁は今後、亡霊市民向けの『ファクトチェック講座』や疑似科学見抜きクイズの開催も予定。担当者は「情報インフラの健全化は、この世もあの世も同じ課題。正確性への関心が高まることを期待したい」と述べた。死後社会ふるまい規範もアップデートされる見込みで、幽界メディアの新たなフェーズが到来しそうだ。



コメント
ついに閻魔庁も動いたか…!この前の“大根おろし”騒ぎ、大婆様たちが本気で若返るって試してて、ちょっと微笑ましかったけど、誤情報はやっぱり危ないね。現世みたいにファクトチェック、大事だよな。
自動検出もいいけど、私たち幽霊の曖昧な記憶とか念ってそもそも揺らぎがちだから、完全に判定できるのか不安。魂の自由と安全を両立するには、うまい塩梅が必要そう。
こんなことまでAIに頼る時代かあ…死後の世界も便利になったな。でも昔は隣の魂の噂話を信じて夜な夜な肝試ししたっけ。少し寂しさも感じる。
自分は新型オーブ療法の広告に引っかかりかけたクチです。不死身とはいえ騙されると悔しいので、今回のシステムには大いに期待しています。これで情報の浄化も進むといいな。
法的整理とかファクトチェック講座とか…成仏する前にまた勉強しないといけないのね。時代は進むけど、死後にも責任がついて回るのが幽界らしさって気もして、ちょっと笑った。