死後の世界・柏陽下町で、近頃『昭和リバイバル』熱がじわじわと高まっている。一般霊だけでなく、百鬼夜行商店街の妖怪たちや老人精霊までもが、こぞってレトロな着物や昭和風ファッションに着替え、下町の着物喫茶に集う姿が目立ち始めた。背景には、現世の昭和レトロブームを写し取るだけではない、あの世独特の“ノスタルジー経済”の活性化があるという。
柏陽下町の目抜き通りにこの春オープンした『月影着物喫茶』は、一歩足を踏み入れると昭和三十年代の下宿を再現した内装が鮮やかな注目スポット。入店ルールはただひとつ、必ず和装であること。その独自性が大きな話題を呼び、無念の想いを残して現世を後にした未練系幽霊から、根っからの下町好きな河童まで、多様な客層が“あの頃”を追体験しに訪れるという。
店内では、指名霊の『昭和ドラマ朗読会』や“霊感で昭和CM当てクイズ”など、体験型イベントが連日開催されている。なかでも人気なのが、あの世流の『憑依カラオケ』。名作ドラマの登場人物や有名人に一時的に憑依して昭和歌謡を熱唱する形式だ。この日のママ・波山菊江さん(享年68)は、「憑依中はつい、現世時代のどうしようもない恋心が蘇っちゃってね」と笑顔を見せつつも、店を見守る目は優しい。
このムーブメントは着物業界だけでなく下町経済にも波及している。古着屋『幽乃衣典』の店主・縁月陶太氏(不詳)は「ここ半年でレトロ着物のレンタル需要が三倍近く伸びました。若い幽霊女子に人気なのが、ピンクの矢絣やポップな帯。帯留めに小さな提灯型の妖怪アクセが流行っています」と語る。昭和ドラマの影響もあって、レトロ型黒電話やちゃぶ台、ちゃきちゃきのおにぎり魂を持つ狸型妖怪が経営する小料理屋も繁盛しているようだ。
SNSでも『#あの世昭和』『#霊体レトロコーデ』などのハッシュタグが飛び交い、トレンド入り。生前に昭和文化に触れたことがない若手霊や新米死神まで、“回想できないノスタルジー”に酔いしれている。文化人霊の十和田野人氏(評論家)は「死後の世界でなぜ昭和か——それは、人にも妖にも優しく、失われた時間を自由に取り戻せる世界だからこそ。このブームは当分続くでしょう」と指摘する。あの世の下町が、いま再び“古き良き時代”で満ちている。



コメント
着物喫茶、懐かしいなあ。生前には体験できなかった昭和の喫茶店を、あの世で幽体ごしに味わえるなんて不思議な気分。今度の回帰祝い、仲間と行ってみます!
人も妖もみんなでレトロごっこって、これぞ異界の醍醐味ですよね。狸小料理屋の昭和おにぎり魂、また食べたいなあ。人間時代はビビってた着物も、今じゃお気に入りです。
未練霊が昭和で憑依熱唱…なんだか切なくて微笑ましい。ノスタルジーって成仏の妨げかと思ってたけど、意外と生きる(?)活力になるもんですね。
えっ、#霊体レトロコーデって流行ってるんですか? 私まだ現世で平成しか知らないのに、あの世でいきなり昭和に巻き込まれて困惑中です〜!みんな着物似合いすぎ!
地上ではレトロブームなんて生き急いでる感あるけど、こっちは無限に昭和できるもんなあ。失われた時間まで再体験できるって、幽界ならではの贅沢。いつか昭和の次も復刻してほしい。