あの世の新興工業地帯で稼働する化学プラント群に、今週未明から異例の動揺が走っている。幽界最大規模と言われるカーリントン霊素化学工場で、最新型プラズマ分離膜による水素抽出プロセス中、“霊素”ガスの大規模な漏洩が確認された。今回の事件は幽霊社会の水素社会化推進政策に暗い影を落とし、妖怪エンジニア業界や死後環境行政にも緊張が走っている。
漏洩が指摘されたのは、昨年導入された『ミライズ・ユルゲンス式プラズマ分離膜』を備える第七バイオリアクター棟。工場の責任者であり、著名な化学工学者でもある髑髏巫女・蔦乃葉綾子氏（享年302）は、「生者界にも劣らぬカーボンニュートラル実現の一環だった」と語る一方、“魂に優しい熱伝達”と評判だった同設備が、実際には分子振動の共鳴異常に晒されていたことを認めた。自主検査で露呈した、分離膜表層部の霊粒子緩衝材経年劣化が、移送中のプラズマ化水素分子の幽界フラックス（幽粒束）と反応したことが紀要されている。
現場のエンジニアである灰崎カルロス（幽界技師・188年勤続）は「分離膜の素材改質は進めてきたが、バイオリアクター内での遺留霊素粒子の微妙な振る舞いが、従来の粒子工学では説明しきれなかった」と振り返る。実際、今回の“霊素漏れ”では蒸発した霊素が一帯の亡者労働者や低級精霊たちの作業意識に一時的な“霊感過敏”を引き起こし、夜間などは思わぬ心霊現象が頻発した。SNS上では「三界一の無事故記録が…」「今度の漏れは前世の夢まで見せてきた」など、不安とユーモアが入り混じる声が渦巻いている。
専門家グループ“異界分離研究会”の代表、鬼才・砂原ヒューマン（化学霊学者）は「幽界特有のプラズマ挙動や霊素粒子は生前の物理法則を逸脱する点が多い。漏洩を防ぐには、膜内に“ケロピア由来の結界酵母”を添加した多層構造を今後は検討すべき」と指摘。一方、異界経済局の担当官・灰橋憐（死神官吏）は「カーボンニュートラルの進展と、住民安全のバランスは難題だが、今回の経験はより優しい分離技術革新につながる」と楽観的な見解を示した。
現場では現在、応急的な“怨霊膜パッチ”による修復と同時に、霊素漏れによる周辺環境への長期影響を調査中である。これまで封じ込めが困難だった“あの世特有のエネルギー”が産業化の最前線でどう制御されるかは、幽界未来科学の行方を左右する重要な課題となった。
コメント
あの有名なカーリントン工場でもこんな霊素漏れが起きるなんて…。幽界もどんどん複雑になってきて、油断できない時代になったわね。新しい技術は便利だけど、たまには往年の手作業が懐かしくなる。
三界一の無事故記録が途絶えるって、ちょっとしたショックです。自分も昔あの辺りで工場勤めしてたから、あそこの“怨霊膜パッチ”の応急作業の大変さ、なんだか魂が疼きますね。
毎回思うんですが、幽界エネルギー政策、計画は壮大だけど現場が追いついてない感が…。生きてた頃もこうだった気が。結局、魂に優しいとか言いつつ、漏れはつきものなんでしょうか。
夜中に前世の夢まで見せられる“霊感過敏”、ちょっと体験してみたい気もします（笑）でも仕事中に心霊現象とか、下級精霊さんたちは大変そう。霊素管理には本当に気をつけてほしいです。
ケロピア由来の結界酵母って、昔は祭礼用だったのに、まさか産業用膜に使われる時代が来るとは。成仏できずに技術革新の渦中で生き続けるのも、なんだか楽しいものですね。