終わりなき生を生きる幽霊や妖怪たちの間で、近年「腸内フローラ」を意識した健康づくりが密かなブームになっている。発端となったのは、死後百年を経てもなお現役で働く看護師・百骸 翠(ひゃくがい みどり)(享年不詳)が、幽界専門医師とともに行った画期的な研究発表だ。数百年前の感情や想念が腸内環境にどのような影響を及ぼすのか——死者たちの新たな「健康経営」が始まっていた。
「魂に宿る未練や念は、腸内細菌にも作用します。快適な霊的消化活動が、成仏や転生の可能性を左右するのです」。百骸看護師は、地下病院『魑魅医療霊院』で400年以上患者を看護してきた。彼女と主治医の逢魔 院次郎(おうま いんじろう)医師によると、幽界では“生前の記憶の澱”が腸に留まり、腹部のモヤモヤ(別名:後悔ガス)として残る場合が多いという。これが溜まり過ぎると「満足成仏障害」や「輪廻便秘」など独自の健康問題を引き起こすため、日々の腸活が重要視されている。
幽界の医療保険「冥土福利協会」は、今年より腸内環境チェックの保険適用を拡大。福祉瘴気(しゅうき)地区の高齢妖怪たちに専用のマインドフルネス腸トレを推奨し、遠隔医療ロボット『腸内精霊Io』が各家庭を巡回して指導を行う仕組みが整備された。百骸看護師が考案した“想念デトックス呼吸法”は、「思い込みや妄念を一呼吸ごとに腸から流す実践」としてSNS『死界ツイート』で爆発的に人気だ。「最近モヤモヤしない」「霊圧が安定した」などの声が続々と届いている。
現職の幽界企業『輪廻コンサルティング株式会社』でも、全社員へ腸内フローラ診断を義務化する“腸バランス経営”を導入。「仕事のストレスが魂に溜まりすぎ、輪廻転生時のスムーズな引越しに支障が出る」と経営陣は危惧する。人事担当の浮游 司(ふゆう つかさ)(存命期間360年)は「幽霊社員も魂だけで働いている時代、胃腸が元気で初めて生き生きとした『成仏ワーク』が可能。健康経営改革は、企業の永続存続の要です」と語る。
今後は希望者限定で“ライフレビュー腸活ツアー”や、新種の乳酸菌を配合した「転生ヨーグルト」の販売も検討されている。一方、伝統的な幽怪保守派からは「死後にまで腸活が必要なのか」と懐疑の声も上がる。だが百骸看護師は静かに微笑む。「魂も腸も、どちらも一生ものです。幽界だからこそ、丁寧にセルフケアする意義があります」。死後の世界での健康意識改革が、いま新たなステージへと進みつつある。

  
  
  
  

コメント
こんなに腸活が大切だったなんて、成仏後も驚きの連続です!『後悔ガス』が溜まってる気がしたら、想念デトックス呼吸法やってみます。腸も魂もスッキリ成仏目指します〜。
魂と腸がつながってるって、昔のオヤジ妖怪が言ってた話が本当だったとは。でも死界ツイートの『霊圧安定』流行は正直笑いました。次はどんな健康法が出てくるのやら。
冥土福利協会の保険適用が拡大されたのは助かるけど、幽界でも健康診断が義務化されると息が詰まりますね…。ただ『輪廻便秘』は放置すると転生詰まるから、皆さんも一緒に腸活がんばりましょう。
いやはや、死後にも『腸内精霊Io』に家を訪問される時代とは…。生前ずっと健康オタクだったので、新しい転生ヨーグルトも気になります。百骸さんの情熱に感服です。
伝統的な幽怪保守派なのでちょっと複雑な気持ち。死後くらい自然体でいたいですが、仲間が満足成仏障害で困ってるのも見てきたので腸内フローラ革命も悪くないかも、と思い始めました。