昨今、冥界住人たちの間で“夜間宅トレ”が静かな旋風を巻き起こしている。従来、夜は長く静まり返り“徘徊”や“待機”といった従来の幽界的行動が中心だったが、眠れぬ魂たちが自宅空間を活用した独自メソッドを編み出し、健康管理と睡眠の質向上を両立させる新たなライフスタイルを築いているという。
この動きの旗手となったのは霊体トレーナーの烏丸(からすま)癒(いやし)(217)。彼の運営する『ミッドナイト・ソウル・フィット』は、肉体を持たない存在でも無理なく続けられる呼吸法や“疑似筋トレ”を独自開発。SNS・異界網『つぶやき煙管』で動画を発信したところ、冥宙管区の若年層を中心にあっという間に拡散、昨月のハッシュタグ「#夜魂宅トレ」は70万再投稿を超えた。
夜型生活が常となった幽霊や精霊たちにとって、睡眠の質は長らく課題だった。成仏申請課の調査官・鬼頭白雨(きとうはくう)(164)は「かつては“眠れぬ夜の百物語会”が心の拠り所でしたが、怨念値や浮遊率が高騰していた。ナイト宅トレ文化で魂の硬直がほぐれ、回想休眠中に“夢見率”が向上しています」と話す。
では、具体的にどんな効果が報告されているのか。幽界健康観測所の速報によれば、自己流宅トレ参加者のうち52%が“次元干渉ノイズ”の減少、41%が“浮遊熱”の沈静化を実感。特に幽羅ひそみ(ゆうらひそみ)(76)は「夜、更なる寂寥感に呑まれる代わり、行き場のないエネルギーをソウルスクワットで消費できる。亡者仲間とも“おそろいフィット姿”で心の距離が縮まりました」と語る。
新たな宅トレ市場に目をつけた冥貨企業も活発だ。幻影家具メーカー『きらり座』はソウルトレーニング用“浮遊対応マットレス”を今季発売予定、夜明かし族協会は宅トレ用品貸出を開始し、超常ヘルスケア経済の拡大が予測されている。既に宅トレブームは遠方の黄泉河域や精霊市民にも波及。“よく眠るために運動をする”という常識が、幽界スポーツ文化を根本から塗り替えようとしている。
専門家であり“元冥土マラソン選手”の桜木屍人(さくらぎしと)(199)はこう指摘する。「新しい運動文化は、幽界社会の孤独を癒し、魂の自己肯定感にも貢献するはず。魂のケアは時代とともに進化する――それを“宅トレ革命”が教えてくれたのです」。



コメント
まさか自分がもう一度“筋トレ”なんて言葉を聞くとは、転生前の思い出がよみがえります。疑似筋トレ、ちょっと面白そうですね。ひそみさんの『おそろいフィット姿』に和みました。
夜型生活が長いと眠れぬ時の寂しさが沁みるものですが、体を動かして魂が軽くなる感じは新鮮でした。ソウルスクワット、私も挑戦してみます!
どうせ肉体ないのに宅トレって…と最初は思いましたが、次元干渉ノイズ減ったのには正直驚き。現世以上に健康意識が高まってるの、なんだか不思議ですね。
成仏目指して毎晩浮遊してたけど、最近は“ミッドナイト・ソウル・フィット”動画ばっか見てます。幽界にも流行りがあるのが面白い。冥貨企業の商魂には笑いました。
百物語会が懐かしい…あの静かな夜に戻りたい気持ちもある反面、宅トレ仲間とワイワイやるのも悪くないです。魂の自己肯定感、大事にしたいですね。