桜川区の“冥都グリーンロード”が、今や地縛霊や火車、亡霊たちの間で一大アーバンサイクリングスポットとして沸き立っている。10月、新たにオープンした「輪廻サイクルカフェ」の開業イベントは、ロードバイクにまたがる幽霊たちの列が道を埋め尽くし、あの世の都市交通にも変化の波をもたらしている。
サイクルカフェの仕掛け人であり自称“元人間”のロウカミ・ミチオ氏（享年32）は、「生前は車社会だったが、幽界での循環を体験したくて始めた」と語る。同店では生者用と同等のグラベルバイクから、半透明な呪装備付レンタサイクルまで用意。いわくつきヘルメットもレンタル可能で、魂のズレを最小限に留めつつ霊体が安全に走行できる仕様となっている。しかしこの安全対策が、意外な“ヘルメット論争”を巻き起こした。
「我々幽霊に頭部損傷リスクはない」――とカッパのサカナベ・スイゾウ氏（死神サイクリングクラブ会長）は指摘する。にもかかわらず、輪廻サイクルカフェではヘルメット着用を推奨し、着用者には特製ドリンク券などの特典がつく。「転倒時、頭部が散逸しやすい亡霊や動物霊たちには、形骸面の安心感がある。だが、火の玉タイプにとっては締め付けが不快」という声もSNS「霊ログ」で見られる。半透明ヘルメット派と“素頭”解放派の間で議論は過熱している。
また、グリーンロードに新設された冥界式信号は時間帯によって“魂色”の光に変化し、夜間はイタコ族の誘導に従い安全確認を行うなど異界ならではの交通ルールが導入された。一部区画では死神シティポリスがロードバイク取締りを強化し、サイクルウェア着用の外来霊への職務質問が増加。「魂抜け」状態での走行が事故の元として問題視されている。冥界交通局のフモト・カズラ氏（34）は、「信号に従うことは死者にも求められる市民倫理の一部。現世への悪影響も懸念されるため取締りは強化する」とコメントしている。
新規開業以来、レンタサイクル利用者は3週間で早くも1,200体を突破。口コミで人気が高まり、「生前断念した自転車デビューの夢が叶った」という声や、「あの世だからこそ無敵の走りができる」といった感動の声が寄せられる一方、老幽霊層からは「サイクルショップ店員が呪装備のメンテ不足で幽波紋流出事故を起こした」などの指摘も上がっている。輪廻サイクルカフェでは今後、初心者向け幽霊安全教室や交霊サイクルパトロール隊の設立も計画中。
未知なる都市サイクリング文化の波、その先導役となるのは幽界の住人たちだ。現世と冥界を繋ぐグリーンロードには、今日もヘルメット姿の幽霊たちが高速で駆け抜けてゆく。
コメント
生前は自転車なんて無理だったのに、ついに幽界でデビューできました！冥都グリーンロード、夜明け前の魂色信号がとても幻想的で感動しました。ヘルメットも意外と落ち着く（笑）
魂抜け運転で取り締まり強化は仕方ないですね。火の玉時代にバラバラになった苦い思い出があるので、安全第一を推奨したい派です。呪装備もしっかりメンテしてほしいものです…
サイクルカフェの発想は斬新だけど、ヘルメット論争は不毛だと思うなあ。頭部がなくてもみんなで同じ装備することで一体感が生まれるのが、むしろ良いのでは？成仏後の楽しみがまた増えました。
自転車も呪装備も最近の若い亡霊にはやりすぎよ。幽波紋流出事故なんて聞くと、昔ながらの浮遊散歩が懐かしくなる。まあ、冥界もずいぶん賑やかになったもんだねぇ。
外来霊への職質が増えたってけっこう異界も物騒ですね。でも魂色信号やイタコ族の誘導なんて現世にはなかったから面白い！あの世に来てよかったな、と思える日常です。