深夜、死後界の山裾にある影松町。ここで開催された「大妖盆栽祭り」が、あの世とこの世の和文化ファンをざわつかせている。一部の未成仏霊や古参妖怪のみが語り継いできた極秘イベントだが、今年は異界SNSの拡散により世代を超えた盛り上がりを見せた。幽玄な和菓子や幻の和楽器も織り交ぜられ、来場者は1万霊体を突破したという。摩訶不思議な幽界の伝統文化に、筆者はその一部始終を密着取材した。
「本来、盆栽は人間界の静寂と調和を映すものだが、死後界では“記憶盆栽”として、霊たちの未練や感情が枝ぶりに表れるんです」そう語るのは、実行委員長を務める妖狐園芸士の結髪璃子（けっぱつりこ・489歳）。会場には、怨念で根が絡み合い宙に浮く紫楓盆栽や、七色の葉を1日に5回も入れ替える“妄想松”など、現世ではまず拝めない品種がずらり。生前に未練を残した霊がその想いを植え付け、何世代にもわたり丹念に仕立てられているのだ。
祭りの名物は、“呪菓子処・淡幽堂”の不思議和菓子と、河童三味線や鬼尺八による即興演奏ステージ。今年は、輪廻庁公認書道家である霜月鈴弥（しもつきすずや・享年33）が「幽葉一心」としたため、即興書道と和楽器セッションの“書道能”も初披露された。観客の九尾老女は「あの三味線は私の尻子玉で作られた音色。筆運びと合わせて心地よかった」と筆者の取材に目を輝かせた。
伝統を伝えるだけでなく、異界ならではの問題意識も噴出している。今年の議題は「祭り盆栽の里帰り運動」。現世から流入した大量の“無縁盆栽”が死後界で野良化し、地縛妖精による“器物かくし祭り”の原因になっているのだ。璃子委員長は「来年こそ“迷い盆栽バンク”設立を目指し、無縁霊たちの新たな居場所を提供したい」と語る。SNS上でも参加者から「私の未練松に、やっと眠る先ができそう」と感謝の声が相次いだ。
最後は深夜2時、能舞台で百体の座敷童子による『帰雲能』が披露され、来場した亡者も妖怪も一斉に“未練の葉”を振って大団円。幽界で脈々と息づく伝統行事は、時に現世以上に多様で自由な表現の場として進化し続けている。姿形も物語も時代すら乗り越え、さまざまな想いをのせた「大妖盆栽祭り」は、来年もまた新たな伝説を刻むことだろう。
コメント
未練盆栽の枝ぶり、久しぶりに拝みたかったです！生きてた頃は隠れて小規模だったのに、こんなに盛り上がる時代が来るなんて…時の流れは不思議ですね。来年こそ私も参加したい。
いやあ、無縁盆栽の野良化は本当に困ったもんだよな。こないだ粘土まんじゅう買ったら葉っぱ混ざってたし…。“迷い盆栽バンク”には大いに期待！現世でもこういう取り組みあればいいのにサ。
紫楓盆栽も妄想松も、在りし日に眺めた幻を思い出します。百体座敷童子の能、懐かしい音色が魂の余韻に染みました。来世でも続いてほしい幽界の美しき伝統だと思います。
最近の若い霊たちはSNSですぐ拡散するから、昔は隠れた風情があったのにねえ。でも「幽葉一心」の書道能は素晴らしかったわ。魂がもう一回転しそう…！
地縛妖精の器物かくし、盆栽祭りのせいだったのか！急にうちの竹刀が行方不明になった理由が判明してモヤモヤが成仏した…。異界の祭りも油断できないな。