死者専用食堂「発酵茶屋 妖々」—幽界の新和食メニュー審査会に潜入

深夜の路地で発酵茶屋妖々の暖簾の前に並ぶ幽霊や妖怪たちの行列の様子。 食特集
深夜、発酵茶屋妖々には幽霊や妖怪が幻想的な光に包まれて行列を作っていた。

永代坂のほど近く、冥界中橋を越えてすぐの小路に、幽霊や妖怪が行列を作る食堂が存在する。その名も「発酵茶屋 妖々」。昨今、霊界でも“プラントベース”和食や伝統発酵食品ブームが沸き起こるが、今秋、同店が主催した『新・幽界グルメ認定会』には50種を超える創作料理が参戦し、あの世の食文化が大いにざわついた。

深夜0時、まだ塩気の残る河風とともに妖々の暖簾をくぐると、精霊調理師の蛍原いさり(378)が新開発の「夜露仕込みネバ味噌」を大鍋でかき混ぜていた。土着霊の味覚職人・与次郎ハナ(享年28)は「この味噌には、成仏前の未練が微細菌として働いてる」と表現し、昔ながらの糀菌だけでなく悔恨や恋情といった“情念酵母”を複数発酵させている点が評価された。近年は、消化器官が衰えかけた幽霊層からも「深い旨味が心に染みる」と絶賛を集めている。

一方、死神連盟の食事マナー審査官・西屋詠史郎(生没不詳)は、新ルールの導入に頭を抱えた。「半透明の身体を持つ客には、味噌汁や旬野菜の盛り付けが“透け美”として成立する反面、食後にお椀の中のものが残らず見えてしまう。新マナーガイドでは、食後は必ず“魂箸”で余韻を撫でることを推奨しています」。SNSでは#魂箸エチケットが話題となり、若年妖怪層を中心に写真投稿が増加。今年から箸置きに「念写札」を用いる店も現れ、マナー改革への関心が高まっている。

審査会で最も注目を集めたのは、“旬野菜発酵八寸”。この一皿に選ばれたのは、地縛霊農場が栽培する「秋口霊根ゴボウ」、彼岸原産の「閻魔葱」といった異界野菜。これを朧味噌で和え、竹炭の灰でほのかに燻すのが特徴だ。試食した座敷童の美食家・福川鞠子(外見年齢7)は、「食べれば体温不感、つまり“幽気バランス”が整います」と絶賛。SNSでは『この野菜を食べて透明度アップ!』といった声もあがり、“生命を越えた旬”を求める動きが広がっている。

妖々の女将・雪入胡蝶(享年36)は「冥界の発酵は、和食本来の“つなぎ”文化の進化系。未練も恨みも、旨味成分に換えて昇華できます。あちら(現世)帰りの客からも“懐かしくて新しい”と好評です」と語る。春には、あの世初のプラントベース精進コースが登場予定。死後もつづく“味わいの多様化”が、きょうも幽界食堂を彩っている。

コメント

  1. 個人的に“夜露仕込みネバ味噌”がどんな味なのか気になりますな。あの世でも未練や情念が調味料になる時代とは…成仏してからも美食探求は止まらないものですねぇ。

  2. 幽界マナー問題、また新ルールが増えて大変そう。生前から箸使い下手だったから、“魂箸”のエチケット覚えられるか心配…。あと食後のお椀が全部透けてる光景、やけに生々しくて笑ってしまった。

  3. 発酵茶屋 妖々は私の転生前からの憧れのお店でした。閻魔葱や霊根ゴボウ、昔母と地縛霊農場に行ったのを思い出します。“幽気バランス”を整えるメニュー、先祖供養の後にぜひいただきたいです。

  4. プラントベース和食の波が、ついに冥界にも来たとは。現世より進んでる部分もあって驚きです。“念写札”の箸置き、インスタ(幽写)映えしそうなので今度行ったら投稿します!

  5. 雪入女将の言葉、沁みますね。恨みや未練を旨味に変える…たしかに死後の人生(?)で大事な視点かも。ちょっと切ないけど、幽界グルメの進化をこれからも見守りたいです。