近年、死後世界の住民たちの間で新たな生活習慣がじわじわと広がっている。「睡眠中に買い物が完了する」――そんな噂の発端となったのは、幽界アプリ開発会社カゲカゲシステムが今春リリースした家計管理アプリ『ユメノシルベ』だ。アプリ利用者は、夢の中で買い物リストを操作し、目覚めると欲しいモノが異界の玄関先に届いているという。実際にどのような仕組みで、どのような生活の変化が起きているのか、ユーザーと専門家の声を交えつつ深掘りする。
主婦のクロミソ・ヒナ(345 没後年齢、幽霊)は、在宅ワークと家事を両立する日々の中で、『ユメノシルベ』を導入した。「肉体はすでに無いのですが、なぜか“疲れる”感覚が抜けなくて……。夜は物品管理まで手が回らず、夢で買い物を済ませられるなら便利だなと始めました」。利用開始から一ヶ月、ヒナさんの家計は可視化され、無駄な購買も減ったという。毎朝目覚めると、冷蔵棺には霊界野菜のキュウリーニやお供え用カリカリ乾燥魚などがきちんと届き、アプリ連動の家計簿は自動で記帳されている。「睡眠の質も上がり、未練の消費癖から抜け出した気がします」と語る笑顔は、幽霊とは思えないほど晴れやかだった。
しかし、予期せぬ副作用もある。近年は死後社会にも健康志向ブームが広がり、『ユメノシルベ』の“夢内リコメンド”によって、低カロリー・高霊素食品を大量購入してしまうケースも報告されている。会社員のアカリ・クモヅ(128、妖怪)は「目覚めたら枕元が低糖分モヨウガラ団子で埋め尽くされていた」と苦笑する一方、「前世より部屋も胃袋もスッキリした」とその効用を評価する。アプリ運営会社によると、“夢内購買行動”の傾向をAI霊識が分析し、本人の無意識的欲望や健康状態まで最適化されるよう日々アップデートが進行中だ。
一方で、掃除好きの精霊カミヤド・ハナ(56、精霊清掃士)は、「睡眠中の買い物と掃除タスクの並行化」の影響を指摘する。「住居をクリーンに保つために、夢から戻るたびに新しいモノが届くと、片付けの頻度が爆増します。でも夢効果か、作業自体はなぜか心地よくなりました」。幽界SNSでは「掃除フローリングが毎朝キラキラしてて気持ちいい!」、「ゴミ箱の中身が“未練メモ”に変換されるの面白い」といった投稿も相次ぎ、生活の新風を感じさせる。
霊界社会学者のハガル・セツナ(死後学研究所)はこう語る。「生者の社会でも在宅ワークや管理アプリ増加による生活リズムの変化が問題視されますが、死後世界でも同様の課題は生まれます。特に夢の中でまで働き・買い物をする現象は『霊的自律神経』への影響も無視できません」。とはいえ、市民の間では好意的な声が多数だ。実際、『ユメノシルベ』提供開始後、幽界家計赤字率は昨年比で14%減少し、睡眠中の“無縁消費”も大幅に減ったという。幽界の日常は、こうして現実と夢・生と死すら横断しながら、静かにアップデートされ続けている。



コメント
夢の中で買い物ができるなんて、生前には考えもしなかった発想ですね。朝起きたときに欲しいものが届いているのは、転生以来ちょっとワクワクします。次は未練グッズも夢うつつで頼んでみようかな。
『ユメノシルベ』、ずっと気になってました!でも私、夢見が悪いときは逆に要らない霊界グッズまで注文しちゃいそうで…ま、冷蔵棺が潤うのは悪くないかも。幽界の進化、日々感じます。
低霊素食品のリコメンド、実はちょっとありがたいです。つい未練つまみ買いすぎてたので、アプリに背中押されて健康的なあの世ライフ送れてます。前世の私が見たら驚くだろうなぁ(笑)
睡眠中くらい自由でいたい派なので、夢でも買い物に追われるって聞くと若干ゾッとします。睡眠の質が上がるどころか、逆に生前みたいに疲れないんですか?あの世にもワーカホリックの波が…
ゴミ箱の中身が“未練メモ”になるなんて、ちょっと哀愁感じてしまいました。道具も思い出も、成仏には断捨離が大事なんですね。異界の家計もどんどんハイテク化して不思議な気分です。