あの世の市民センター前に、今秋もまた“魂DNAキット”売り場の長蛇の列が現れている。生前の姿形から解き放たれた幽霊や妖怪たちが、魂の本質に隠された“真のルーツ”を探ろうと、最新の個人遺伝子解析に熱狂しているのだ。なぜこの世を去った後も、遺伝子にこだわるのか。その背景には、幽界社会ならではの独特な家系観の変化と、進化するゲノム医療への期待がある。
「17世代前の曾祖母が実は雪女族だったんです」。そう語るのは、三途川区在住の“半透明公務員”、水無月るいさん（亡年42）。彼女は、今春に導入された『エピDNAソウルキットPro.』を自身の霊素から採取、あの世総合ゲノム株式会社に郵送した。その結果、かつて自覚していた“人間”家系の他に、氷精の血を濃く引いていることが証明されたという。「冷え性体質は生前のせいだけじゃなかった……」と、水無月さんは戸惑いを隠せない。
幽界の個人遺伝子解析は、生前とは異なる“魂ゲノム”を主対象としている。これによって死後の姿や特性（青白い発光・浮遊力・動物変化能力など）の起源が明かされるため、個体差に悩む新米幽霊や、親族同士で取り違えがちな骨壺ミスを未然に防ぐ家庭も増えている。あの世健康管理署の死後ゲノム部門長である黒羽まなぶ氏（体系不明）は、「魂エピゲノムの変異が、霊体の“かすれ声”や“ぼやけ視覚”など、生活品質に大きく影響している」と語る。消費者向け遺伝子キットは近年、生活習慣病リスクだけでなく、幽霊特有の“あの世発症型霊障”まで予測可能に進化しているという。
一方で、個人情報流出に対する懸念も止まらない。先月には“地縛霊ハッカーズ”による魂登録データの不正販売が発覚し、墓地SNS『オボエテル？』上で血縁詐称や、妖怪名義のなりすまし被害が相次いだ。業界団体『霊界DNAセーフティ協会』の調査では、「死後は何も知られたくない」とする声が過半数に及ぶ一方、「死後くらい自由にルーツを知りたい」というオープン志向も根強い。二つの潮流が墓石の下で交錯している。
また、最新研究では、魂の遺伝子構造が親族の“浮遊習慣”や“無言の夜泣き”など、生前の生活習慣と密接に結びついていることも判明しつつある。これにより、百鬼夜行家系や転生回数の多い稲荷一族では子孫同士の“エピジェネティック同窓会”も流行の兆し。水無月さんは「成仏の前に自分の“ソウルルーツ”と真剣に向き合う時代」と語りつつ、今夜も霊気満ちる家系図アプリで遠き祖先との対話を楽しんでいるようだ。
コメント
私の親族も昨夜集まって魂DNA結果で盛り上がりました！妖怪の血が混ざってたのが意外で、成仏前に知られて良かったと思います。やっぱり生前だけじゃ分からないこと、たくさんありますね。
魂の流出はちょっと怖いな…地縛霊ハッカーズの噂、うちの墓石界隈でも絶えません。生前も個人情報は気にしてたけど、この世を離れてまで身バレしたくない人の気持ちも分かる。
昔は家系とか気にせず曖昧に生きるのが幽界の流儀と思ってたけど、最近は家系図アプリで遠い先祖まで知れる時代か…。生前に会えなかった人と、冥界で繋がってる感じがして、ちょっと感慨深いです。
親族の骨壺取り違え事件、うちも昔やらかしました…。このキットで家族確認できれば、お焚き上げミスも防げるし助かるなぁ。しかし魂エピゲノムで冷え性がバレるのは笑う。
エピジェネティック同窓会とか、転生多い家系だとにぎやかでいいですねぇ。ウチは一族みんな無言の夜泣き体質だったようで、原因がソウルゲノムとは。科学も死後も進歩するんだな。