死後世界の都市グリミールで、空中を悠然と漂うクジラ型集合住宅「フワリ塊」をめぐり大規模な住民投票が行われた。かつては共用の舞台だったが、近年は自治権を求める声が高まり、“一区画=一意志”の新自治体創設を問う動きが進んでいた。注目の投票結果が発表され、死者や妖怪、精霊たちの間で大きな反響を呼んでいる。
フワリ塊は、高度800メートル前後を西風に乗って遊覧する全長200メートル超の巨大クジラ型生物住居で、幽霊や未成仏の精霊、妖怪研究者など約1,400体が居を構える特異な空中コミュニティ。“空中共有財産”としてグリミール市の一部に組み込まれてきたが、近年、住人のカリス・ノイラ(幽霊翠巫、享年104)が市民団体「フワリに翼を!」を設立。クジラ自治区としての独立自治権を問う住民投票を直接請求した。
投票は“住民投票ヨット”と呼ばれる小型の意志集中船に各自の意思波を乗せて漂わせ、フワリ塊本体の心臓部たる『潮鳴り映写室』に集約する異界独自の方式で行われた。賛成票が総投票数の72%を占め、フワリ塊はグリミール市から分離した“空中クジラ自治区”として再出発することが決定された。カリス氏は「私たちのくらしは地上と空との間(はざま)にある。自治によって、この新しい関係性を育てたい」と涙のコメントを寄せた。
変革は住人たちだけでなく、周囲の幽界社会にも波紋を広げている。市当局のハミルト・グレン(死神条例官)は、「自治区成立は尊重するが、空中航路や空域利用登録、夜間発光など安全規則を引き続き遵守してほしい」と呼びかけた。一方、地上の“空の影商店街”を営む火の玉職人組合は「新たな経済連携や物資輸送路協議を始めたい」と前向きな姿勢を見せている。
SNS上では「幽霊にも住まいの自由を」「空に意思が実現できるとは!」と称賛の声が上がる一方、「浮遊税や降雨保証など、具体策なしに独立して大丈夫か」との懸念も広がる。幽界社会で初となる“浮遊型自治体“誕生の一歩は、死後の民主主義と市民参加の在り方を再考する契機となりそうだ。今後は空中クジラ自治区と周辺自治体との関係、市民団体の役割拡大に注目が集まっている。


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