死後世界最大の人気スポーツ「霊球(ゴーストボール)」で、今季前代未聞の戦略革命が起きている。老舗チーム「舞ヤミーダーズ」を率いる新監督、ポルターガイスト・ルメル氏(享年不詳)は、鬼火アナリティクス専門の妖怪分析チームを招集。百年続く直感と呪術中心の勝負観を一変させ、データ分析を駆使した戦術で連勝を重ねている。
異変の発端は今季開幕直前、舞ヤミーダーズの経営会議におけるルメル監督の発言だった。「最先端のスポーツテックを導入しなければ、死神リーグ制覇は叶わぬ」と語ったルメル監督は、瞬時に幽界有数の分析妖怪集団“ケルベロン・データ工房”と契約。怪火型センサーを用いた選手の“幽体速度”や“魔力消費量”など60項目の生体データを収集し、解析ソフトによって膨大な戦術パターンを導き出した。
注目は分析妖怪パドモール・グランディエ(推定1001歳)による対戦相手ディフェンスの幽波動傾向解析。試合中にデータ式お札を用いて、相手守護霊の“出没タイミング”や“霧化進度”をリアルタイムで予知。これにより舞ヤミーダーズの主力香織ヶ島ソフィリナ選手(元浮遊霊)は、従来の“突撃霊体術”を応用し、無駄な転生エネルギー消費なしに決定打を繰り出せたという。第六試合後半、ソフィリナ選手の幽体加速率は従来比142%を記録。観戦した妖怪評論家バンゲラ・巳範氏は「呪術一辺倒だった戦術が、いまや“幽体アルゴリズム合戦”へと変貌しつつある」と驚きを隠さない。
ただし旧態依然の霊界スポーツ界は揺れている。地縛霊サイドのベテラン審判オドロ木松太郎氏(享年332)は、「データの力で呪力を測るなど、時代錯誤もいいとこ」と苦言。SNS上でも“一霊一札主義はどこへ?”“幽球はロマンであってほしい”といった声が少なくない。一方、若手選手のあいだでは「自分の呪力の弱点が数字でわかるのは助かる」「トレーニングの成果が見やすい」と受け容れられつつある様子だ。
霊界スポーツ庁のレポートによれば、今季全23チーム中9チームがデータアナリティクス部門の強化を決定。死者同士の熱い肉体派バトルから、幽体の不可視戦略合戦へ――霊球は今、死後スポーツ最大の転換期に突入した。ポルターガイスト監督は次のように語った。「幽界にも“数値化”の波。この流れに乗り遅れた者から、再転生のチャンスさえ逃すことになるだろう」。歴史と伝統の狭間で、舞ヤミーダーズの快進撃はいったいどこまで続くのか。


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