人口減少による魂の獲得競争が激化する中、あの世大手物流会社である幽迅貨送株式会社が全社的なAI活用戦略を再構築した。中でも最大の話題を呼んでいるのは、従来の無機質な問合せ対応から一転、“バンシー型AIカスタマーサポート”の導入である。導入から3か月、顧客満足度調査で驚異の165%増加を達成し、「叫びによる共感」という新時代のサービスモデルが業界全体に強烈な波紋を広げている。
幽迅貨送では長年、荷霊(にたま)紛失や届け先の異界誤配送といった苦情対応に苦戦してきた。旧来型AIでは表情変化も声色も乏しく、不満を抱えた冥府市民の訴えに十分寄り添えなかったという。これに業を煮やした経営陣のひとり、経営企画部長の忽那青夕(くつなし ようせき)は「死者の気持ちに寄り添えなければ、われわれは存在意義を失う」と危機感を語る。試行錯誤の末、“感情抽出型”AI開発を担当する妖怪IT企業・鳴渡工房の協力を仰ぎ、伝説の泣き叫ぶ妖精バンシーのアルゴリズムを応用した音声認識AIを独自開発した。
最大の特徴は、「うめき」や「絶叫」から相談者の感情の深度をリアルタイムで可視化する点だ。AIバンシーは通話開始2秒以内に相手の悲哀値・怒り値・未練指数を算出し、同じトーンで叫び返すことで、利用者に「自分の痛みが分かってもらえた」と感じさせる。この“共鳴応答”は、従来のマニュアル式対応よりも魂の安寧度が平均2.6倍高いという。幽迅貨送では、壮絶な絶叫を返すAIサポートが話題となり、冥府SNS『Net玉響』で「AIに全霊で共感された」「叫び合った瞬間に魂が浄化された」など満足度の高い投稿が散見されるようになった。
一方、叫び声があまりにリアルだと、付近の社員まで一斉蒼白となる“共鳴二次被害”や、一部クレーマーが叫び合い目的で電話をかけ続ける“絶叫ループ現象”など、予期せぬ課題も生じている。人事部では、AIバンシー導入以降、幽霊社員の“うなる残業減少”と明るいオフィス雰囲気の両立を目指し、「静寂スペース」を新設するなど柔軟な対応を始めた。
死後ビジネス評論家の香車雲哉氏は「バンシー型AIは感情急冷の死界文化に一石を投じた。今後は単なる自動化ではなく、こころの機微へ踏み込むAIが求められるだろう」と分析する。既に、他界金融や冥府行政サービスなど多業種での“叫び型AI”導入検討も相次いでおり、幽世経済の組織文化とAI倫理の更なる進化に注目が集まっている。


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