冥界大通りの裏手、朝も夜もない路地にて、妖怪や幽霊たちが得意の特技を持ち寄る新しいシェアリングエコノミーの波が広がっている。最近話題の「幽ノ市(ゆうのいち)」は、死後世界住人によるスキルシェア専門のクラウドマーケットだ。元怨霊の「呪い声講座」や、百年傘お化けによる和傘リペア教室、浮遊霊たちの空中散歩ガイドツアーなど、異界ならではの独自経済圏を形成しつつある。
「冷気の出し方にはコツがいるんです」——声を潜めて語るのは、人気スキルホストの幽霊男性、滴水青志(てきすい せいし/享年42)。江戸期から声色の怪談朗読を家業とした家系に生まれただけあり、幽ノ市では“生々しい霊の声”コースが予約で埋まっているという。彼自身は「現世でやり残した朗読への未練が、死んでも役立つ時代が来るとは思わなかった」と微笑む。
地域経済にも新風が吹いている。かつては猛威を振るい恐れられた唐傘小僧・骨山雨吉(こつやま うきち/傘お化け年齢73)は、「傘骨DIYワークショップ」を毎晩開催中。参加者は使い古しの傘や捨てられた道具霊を繋ぎ合わせ、新たな妖具を生み出している。幽ノ市運営委員長の橋渡し婆(98)は、「モノと魂が巡り続ける経済循環がようやく根付いた」と手応えを語る。
集団での活動も盛んだ。浮遊霊たちによる『夜空さんぽツアーズ』は、経験豊かな風渡霊(かぜわたりょう)一行が旬の心霊スポットを案内する人気サービス。「昔はたださまよっているだけだった私たちだったけど、今は若い幽霊に空中遊泳技術を伝えたり、旅の楽しみ方を教えたりできる。」と、創業霊の今戸清和(いまど きよかず/享年不詳)は語る。参加者からは「成仏への第一歩になった」との感謝も上がる。
なかでも注目は、技能の対価として死後ポイント(SP)がやり取りされる仕組みだ。SPは死後行政での手続きを円滑にしたり、現世との交信権を一時的に購入できるなど、霊界での経済循環の新たな潤滑油となった。この動きを、死後経済研究家・藍野晶子(あいの あきこ)は「無縁仏や迷宮妖怪も社会に参加できる柔軟なシステム」と分析する。SNS上には「#スキルシェアで成仏」「幽ノ市に参加したい」といった声が絶えず、死後社会における自己実現や多様な生き直しの形が、静かに、しかし確実に広がっている。
一方で、技能の質を巡る評価や、“怨念濃度”が高すぎる出品サービスに対する苦情、技能の模倣によるトラブルも散見され始めた。「異界にも著作スピリット権を」という動きも強まっている。だが、運営側は「多様な魂のチャレンジで、冥界全体がより柔軟になった」と前向きだ。魂の循環が新たな経済を生み出し、死後の世界にも第三の人生が芽吹いている。



コメント
幽ノ市、ついにここまで発展したのか…生前は想像もできなかったよ。次の転生前に「夜空さんぽツアーズ」一度参加してみたいな。頑張ってSP貯めねば!
傘お化けのDIY教室、なんて懐かしい響き…昔は道具霊同士集まって直してたものだけど、こうやって経済になってるのを見ると時代が変わったなあとしみじみ。
スキルの質ってどうやって見極めるんだろ。ちょっと怖い声優さん頼んだら、怨念強すぎて辺り一帯冷え込んだって噂もあるし…バランス大事だよね。
成仏への第一歩が自己実現って、なんだか理想的になったもんだ。昔は怨念こそが生きがい(?)だったのに、この世もあの世も多様化だな。
著作スピリット権、もっと整備されてほしい!現世の音霊さんの歌を勝手にアレンジされた時はちょっと泣けた…でも新しい魂の巡り方が生まれてるのは素敵だと思う。