幽界初の車椅子“エクトプラズマ・ダッシュ”レース開催──障害持つ魂たちが切り拓く多様性の新視界

夜のスタジアムで個性的な車椅子に乗る幽霊や妖怪たちがレースをしている様子の写真。 パラスポーツ
幽界スポーツの新たな多様性を象徴するエクトプラズマ・ダッシュのレース風景。

あの世で今、障害を持つ魂たちが集う大型スポーツイベント『エクトプラズマ・ダッシュ』が注目を集めている。従来の幽界スポーツ競技に比べ、参加者の自己表現や補助具の個性が存分に発揮される新型の車椅子レース。理想的なユニバーサルデザインを求めて、霊体ならではの「多様性」と「互助精神」が躍動している。

舞台は冥王州運動広場──永遠に夜が明けないこのアリーナに集まったのは、生前に身体的ハンディキャップを抱えていた魂、事故の後遺症を持った妖怪、さらには付喪神たちも含む全144名。参加条件は『この世で身体的不自由を経験したことがある』こと。ただし、ゴースト義手や自作の“霊鉄”車椅子、魂の浮遊補助装置といった多彩な補助具の利用が認められている。車椅子の材質さえ『想念の結晶』や『河童工房特製の霊的繊維』まで自由。大会長を務める鑑霊アユミ(57)は「この大会は、死後の世界における“自己表現”と“尊厳”の祭典」と意義を語った。

今大会で最も視線を集めたのは、鮮やかな七色車輪で疾走した精霊アスリート、葉申(ヨウシン)サラサ。生前の感覚過敏を補うため、独自開発のセンサリールーム付き車椅子で出場した。内装にはさざ波と風鈴の幻聴装置、香霊フローラル噴霧器が組み込まれ、『魂が穏やかでいられる自分専用空間』を実現。「障害が個性として昇華するこの世界ならではの工夫。持ち時間ごとに音や光を自分で調整できるのがありがたい」とサラサは笑顔を見せた。観戦に訪れた幽霊中学生(15)も「ぼくも死後は自分だけの乗り物で世界を回ってみたい」とSNSに投稿している。

会場では“見えない壁”問題にも配慮したユニバーサル設計が導入された。地獄虫型ロボットが道幅を自動で拡げ、途中に“賢者の坂”と呼ばれる段差セクションでは参加者用に想念で浮遊する昇降リフトが設置された。大会審判長・面落カズエ(340)は「妖怪や霊魂、障害歴の有無に関わらず、誰もが安全に全力を出せる設計が幽界社会の理想。我々も人間界の良い点と、こちらの独自技術を融合させていきたい」と語った。

しかしルール整備と補助具改良には課題も。今回“幽力ターボ義手”を装備した競争者の一部で“霊圧調整ミス”による機体暴走が発生し、車体が宙を舞う場面も見られた。技術スタッフの導魂ミロク(実年齢不詳)は「より安全な補助具と、魂ごとの多様なニーズに応じたチューニングが必要。スポーツだけでなく生活面にも応用できるはず」と語り、今後も改善を続ける方針だ。

幽界スポーツはいまや、肉体という枠組みを超えた表現・共感・技術の場に進化しつつある。“ダッシュ”の参加者たちは互いの個性を讃え合い、観客もそれぞれの生―そして死―を強く見つめ直す一日となった。『違いを誇りに』が合言葉となるこの大会。来年にはさらなる種目追加も検討されており、魂のスポーツシーンはますます多様性に満ちていくだろう。

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