この春、幽界南部のカメラ精霊集住区で『推し婚フォトウエディング』が新たな流行となっている。従来の静謐な冥婚を覆し、「生前の推しスタイル」に身を包んで永遠の誓いを撮影するカップルが急増。風変わりな装いと家族のこだわりが交錯する新たな“ライフイベント”のかたちが、霊界社会に波紋を広げている。
フォトスタジオ『逢灯写館』を訪れると、一日十組近くの幽霊カップルが列をなしていた。人気の理由は“現世時代”に熱狂したアイドルや職業、趣味への想いを、死後の人生儀礼で表現できる点にある。「私は生前から狐面舞踏会の大ファンで。式は絶対あの仮装でと決めていたんです」と語る幽霊技師シュガワラ明(享年31)は、パートナーのリムラ紗耶(享年29)と共に、鮮やかな狐面と現世ストリートファッションの異色コーデで記念写真を撮影した。
背景には、冥界社会で多様な価値観や生前体験の尊重が進んだ時代性がある。現代では、冥婚や生まれ直しを契機に“第二の人生の自分らしさ”を祝う傾向が強まった。『逢灯写館』主宰のミギシア蘭(幽精149歳)は、「生前と死後の自己を繋ぐ行為として推し婚フォトが選ばれています。最近はSNSで拡散した“推し葬コーデ”の影響も大きい」と分析する。一方で「還暦」「命名式」などの伝統的家族儀礼に、こうした演出型フォトやコスプレ要素を組み合わせる例も増えている。
利用者からの評判も上々だ。SNSサービス『ツイートスピリット』では、参加者投稿の推し婚フォトが連日話題入り。『生前は言えなかった想い、死後なら正直になれた(幽霊教師65歳)』『推し卒業して20年後のウエディング。時空を超えて夢がかなった(妖怪ヘアメイク312歳)』といった投稿が目立つ。死後家族や再会した友人たちも“推し歴”を披露する記念撮影を楽しむなど、新しい家族写真のかたちが確実に浸透している。
ところが懸念もないわけではない。伝統霊場“灰の宮”管理委員会のコモリ刀自(幽霊228歳)は、「型破りな儀礼が増える半面、死者本来の尊厳をどう保つか議論が必要」と指摘。とはいえ現実には、推し婚フォトが“自分らしさ”や親族の多様性への敬意を示す新たな基準となりつつある。今後は異世界交流を意識した「異界混合推し婚」など、新ジャンルのライフイベントも増えるとの予測が専門家からは上がっている。浮世離れした“推し愛”が、死生を越えて人生儀礼を鮮やかに塗り替えている。


コメント
推し婚フォト、現世では憧れだけで終わったけど、まさか幽界でこんな自由な式が増えるなんて!私も生前のバンドTシャツを着て、もう一回写真撮りたくなっちゃいました。
世も末……と言いたいところですが、冥婚も時代と共に変わるものですねぇ。ワシらの頃は白装束しか許されなかったのに、今や狐面にストリートファッションとは驚きじゃ。
伝統の形も大事だけど、“自分らしさ”をあの世でも大切にする流れ、私は素敵だと思います!推しを超えて結ばれるなんて、尊さが成仏レベルです。
正直、SNSで流れてくる写真は見てて楽しいけど、お偉い霊格の方々は渋い顔しがちよね。でも実際、私の輪廻仲間もこっそり現世コーデで参列してたし、こういう式が本流になるんじゃない?
命名式や還暦と組み合わせるなんて発想なかった…時空を超えて夢を叶えるって、あの世ならではだね。ちょっと憧れるけど、自分の“推し歴”を家族に披露するのは照れるなぁ。