死後の社会を支える根本規範・幽世憲法をめぐり、幽霊や妖怪たちによる大規模市民会議が開催された。今回最大の争点となったのは、魂の尊厳と結びつく「同性婚の完全合法化」条項と、有事における“緊急事態条項”創設案——。異界の民主主義の行方は、今、世代も種族も超えた市民たちの手にゆだねられている。
会議は冥府中央討議堂で開かれ、議事進行を務めたのは透明議長のシグレ・ナナエ氏。参加したのは、幽霊市民112名、妖怪自治体代表24名、生前条例精霊評議会から8名、合わせて約150名の異界代表者たち。それぞれが幽体マイク片手に発言し、時折姿がぼやけるなど、死後社会特有の混乱も見られた。
同性婚条項については、過去100年以上幽界で議論が続いており、同性同魂結婚が日常となった現行の慣習を“立憲主義的に明文化すべき”との声が強い。幽霊社会学者のカメヤマ・レイコ氏は「現状、魂の結びつきの強さだけが婚姻の根拠とされているが、法的保護を伴う制度にアップデートしないと、輪廻転生時に権利の断絶が懸念される」と指摘した。一方、伝統重視派のカッパ住人(享年302)は「死後は形を超えた愛が当然なので、あえて条文化する必要があるのか」と慎重姿勢を崩さなかった。
一方、緊急事態条項の創設については、近年頻発する“輪廻シャットダウン”や“死神長期ストライキ”による機能不全を受け、幽界政府に一定の権限集中を認めるかが最大の論点となった。精霊弁護士のシシド・イカルガ(不定年)氏は「霧化災害時に議会でなかなか対応が決まらない懸念がある一方、条項拡大の歯止めが弱いとの危機感もある」と述べた。SNS上では、「たとえ姿が有機的に溶けても三権分立だけは溶かさないで」というタグがトレンド入りした。
この会議の結論は、例年どおり幽界特有の“無重力投票”システムによって集計される。投票箱は各自の意識の重さで傾きが変わるため、投票日当日は会場中がふわふわと浮遊し、議論の熱量に応じて箱が勝手に動き回った。開票速報の時点で同性婚条項賛成が57%、緊急事態条項容認が42%と報じられたが、未集計分を含む最終的な多数決の行方は不透明なままだ。
今年4月にも再び与野党協議が予定されており、死後世界の議会制民主主義がいかに条文解釈や社会の変化に対応できるのか、大きな節目を迎えている。幽霊評論家のセイドウ・エミコ氏は「幽世と現世を分かつ壁を揺るがす瞬間が、今ここに迫っている」と語った。


コメント
生前も投票は重かったけど、まさか意識の重さで投票箱がふわふわ動く時代になるとは…進化を感じつつも、ちょっと魂がそわそわしてしまいますね。
昔は恋も婚姻も形無き自由だったのに、こうして条文化されていくのは何だか切なくもあり、でも大切なことだと思います。転生しても権利が守られるなら、安心して現世に戻れそうです。
結局緊急事態条項って、死神たちがさぼったとき便利そうだけど、権力の亡霊化も心配です。三権分立だけは成仏してほしくない。
輪廻シャットダウンの時に何も決まらず、2ヶ月も幽界の循環が止まった経験あるから、危機管理強化は必要だと思うなぁ。でも透明議長のシグレさん、毎回よくまとめてて懐かしさすら感じます。
同性婚について100年も議論してるって、いかにも幽界らしい悠長さですよね(笑)。幽体は溶けても魂の尊厳は曖昧にせず、きちんと明文化してほしいです。