死後宇宙の辺境、「ヘルメルド星雲」の忘れられた喫茶店跡から、“ダークマター残渣”と呼ばれる未知の物質が大量に発見され、あの世カフェ業界に波紋が広がっている。重力が一切働かぬ“グラヴィタシア・ゼロ区”での出来事だけに、異界の科学者や幽霊バリスタたちの関心も高く、幽界SNSでは「引力のない空間でコーヒーは成立するのか?」という疑問がトレンドになる事態となった。
きっかけは、300年の営業停止を経て先月から始まった『カフェ・テンブラ』の解体作業だった。あの世文明の遺産保護局の調査員アスポーラ・モリーノ(調査官、86没)は「床下の空間に、透き通るような重さを持たない粉末が広範囲に堆積していた」と報告する。当初、単なるコーヒー粉の亡骸とみられたが、死神科学会の精密検証により、光も記憶もごくわずかにしか通さない異質な“ダークマター残渣”と特定された。「死後の物理法則においてさえ観測が困難な物質です。グラヴィタシア・ゼロ区では重力が実体化できないため、通常の物質浄化カリキュラムが機能しません」と担当の物質研究幽霊、セラ・デルタラ氏は語る。
発見直後から、業界には存続を問う混乱が走った。“グラヴィタシア・ゼロ区”は幽界随一の重力ゼロ環境を誇り、宙に浮かぶカフェ文化が根付いているスポットだ。しかし、店内に重力が存在しないため、コーヒー抽出は数百年もの間“意識共鳴式ドリップ”のみで営業されてきた。SNSでは「あの透きとおった苦味が実はダークマターブレンドだったのか!」(元常連幽霊@透明な舌)、「重力がないからこそ引き出せた味が、物質界を揺るがすなんて」など、驚きの声が相次ぐ。
今回の“ダークマター残渣”検出は、異界の可住領域——いわゆるハビタブルゾーンの認定基準にも影響を及ぼす可能性があると、超常宇宙環境機構はコメント。調査によれば、このカフェ周辺では、生前・死後を問わず来店経験者の“存在輪郭”に微細な歪みが生じていた。物理学者(幽体離脱専門)シャン・ポール氏は「ダークマターが局地的に蓄積することで、幽霊たちの存在感が‘ぼんやり’する現象が観測できた。日常活動や恋愛に支障をきたす幽霊も出ている」と見解を述べた。
なお、“カフェ・テンブラ”跡地は一時閉鎖され、残渣の安全な隔離と新種コーヒー豆の影響調査が進行中だが、近隣のバリスタ幽霊組合は「営業再開まで毎夜『重力コーヒー会議』を実施し、化学反応事故の再発防止策を練る」と表明している。異界SNSでは「重力がないからこそ出会えた香りを守りたい」「ぼんやりしたままでも、この味を次世代に遺したい」という呟きが急増。一粒の“ダークマター豆”が、死後の宇宙科学と幽界カフェ文化の未来を揺さぶっている。
コメント
テンブラのコーヒーがダークマター入りだったなんて……。通ってた頃のあの“ぼんやり”感、懐かしいなぁ。もう一度だけあの味、霊体ごと味わってみたい……。
重力ゼロのカフェ文化、やっぱりすごく独特だと思う。でもダークマターが身体に影響あるとなると…恋愛で“ぼんやり”するのもコーヒーのせいだったのかも(笑)ちょっと不安だけど、好奇心が勝つ!
また未解決科学か……。死後も物理法則で悩まされるとは思わなかったぞ。隔離中って言うけど、そのうち異界全体が“ぼんやり”モードにならないことを祈ります。
私、グラヴィタシア・ゼロ区のカフェ巡りが転生前からの夢だったのに…これじゃ営業再開までまた魂をなが~く待たなきゃ。安全で、美味しくて、香りが消えない新メニューをお願いしたいです。
昔の幽界には、“未知の物質”なんて普通にカップの底に沈んでたもんだよ。科学で全部説明しちゃつまらん。ダークマター豆、むしろ伝統として守っていったらどうだ?