現世ではほとんど語られることのない幽界最大級の都市、グレイ市。このほど、同市の都市運営委員会は、死後世界における「魂の流通」と「金融取引」の両方を革新する、画期的なプロジェクトを発表した。注目を集めているのは、今月から実働が始まった“蛾型スマート・ドローン”による都市インフラの自動化だ。見た目は巨大な白蛾そのものだが、夜毎、光る針金のような触角を揺らしながら魂データと霊貨を運ぶ新しい都市の風景が広がりつつある。
本プロジェクトの開発責任者である技術妖魔、カリカ・ルナリス(298)は、「幽界では魂が数億単位で往来しますが、従来のポルターガイスト便や死神急便では慢性的な遅延や迷子事故が多発していました」と語る。そこで開発された蛾型ドローン《ルキウス》は、魂波長を個別認識する繊細なセンサーをもち、一個体で同時に12件の配達・決済を安全にこなせる。また、健全な霊貨循環のため、過剰に溜まった魂が停滞している居住区へ、余剰分を迅速かつ自動で分散させるアルゴリズムも搭載。それにより、都市の「穏やかさ指数」や「夢想的居心地感」が大きく向上しているという。
都市内部で利用されるフィンテック技術も、既存の人間社会を遥かに凌いでいる。魂基準通貨(SP:スピリットポイント)は、蛾型ドローンの光触角を通して瞬時にP2P決済が可能。住民は自身の分身体や仮想肉体をスマートストールに認証させるだけで、自動的に取引が完了する仕組みだ。特に高齢ゴーストや半透明妖精からは「現世で諦めたワイヤレス銀行デビューが、死後にかなうとは思わなかった」という喜びの声が多く届いている。
新たなインフラ導入による恩恵は、文化・娯楽面にも波及している。カルナ・ミアリス(幽界劇場経営・142)は「深夜帯でも蛾ドローンが魂鑑賞券を届けてくれるため、観客動員が3割増えました」と語る。さらに、蛾ドローン自体が夜空に即興の光文字やアートを描くイベントも始まり、都市のSNS《霊波タイムズ》上では「#夜蛾の詩人」「#ドローン舞踏会」といった新たなカルチャーが誕生している。
技術妖魔協会のウィルト・ソバ(347)は、「蛾型ドローン誕生は幽界社会の『隙間』を可視化した巨大なイノベーション」と分析。一部には「頻繁に蛾ドローンの羽音で眠れない」「ミストレス地区では霊的電磁障害が発生している」といった声もあがるが、現地当局は今後、音質制御と誘導ルート最適化で改善すると発表している。死後の都市生活は、今や絶え間ない技術革新とともに新たなフェーズへと突入しつつある。
コメント
現世で蛾が苦手だったのに、まさか死後に蛾型ドローンに囲まれて暮らすことになるとは…でもあの光る触角、夜空に漂う姿はちょっと幻想的で好きになりそう。魂の配達も随分スムーズになりましたし、やっぱり技術の進化ってすごいですね。
また夜中に羽音で目が覚めたわ……私の小魂寮の窓の外であのドローン群がうろうろしてるの、ちょっと落ち着かないのよね。まあ、昔みたいに魂が迷子になって届かないよりはずっとマシだけど、静かな夜もたまには恋しいわ。
金融端末操作が不得手で現世ではいつもATM行列だったワシじゃが、幽界に来てから蛾ドローンのおかげで一度も並ばず魂ポイント管理できるとは…死後の進歩、ありがたい。昔の死神急便時代が懐かしくもあるのう。
素敵ですね!蛾ドローンたちが描く夜空アート、去年転生したばかりの私にはとても新鮮。「#夜蛾の詩人」ってタグ、大好きです。人間世界じゃ絶対見られない、死後都市ならではのイベントだと思います。
どうせまた新しいもの導入しても、次の転生までにまたバグだの障害だの出るんだろ?昔から霊界インフラは変わらんさ。でもまあ、自動配達になってからは家族の魂データが迷子にならないのは助かってるよ。