昨今、幽界都市部の拡大と温暖化の影響が深刻化する中、ユーレイ柳公園では前例なき“反都市化”ムーブメントが巻き起こっている。主導するのは、長らく公園の生態系を支えてきたヤナギの精霊たちだ。彼らは資源の自給自足と生態系保全を両立させるため、公園内に“浮遊コロニー”を建設し始めた。新たなグリーンインフラのあり方として注目を集めている。
柳精霊組合の代表、カガリ・フヨウ氏(203歳)は「都市の騒音とコンクリートが、我々の根の伝達網を脅かしています。地上で共生の限界を感じた結果、従来のハンモック式樹上居住から一歩進めて、“浮遊コロニー”を開発しました」と語る。コロニーは柳の枝葉を基盤に、空間を歪曲する幽体繊維で編まれた“根の舟”を浮上させたもの。住民はそこにエーテル畑やミズカガミ発電装置を備え、必要な食料やエネルギーを完全にコロニー内で賄っているという。
事の発端は、幽界都市開発庁が進める『南部区画・未来像2030』が柳公園の一部敷地を高層霊堂建設用地に指定したことだった。昼夜を分かたぬ工事音と異界交通の増大で、夜行性だった柳精霊たちの“うねり歌”発祥率は3割に低下。一時、柳の間から悲鳴のようなすすり泣きが絶えなかったという。だが自給自足型“浮遊コロニー”はストレスから住民を守り、柳精霊同士だけでなく、昆虫系妖怪や漂鳥の霊獣までも呼び寄せ、新たな小規模生態系が形成されつつある。
この動きに対し、都市開発庁のヤスダ・ミレイ課長(亡者、88歳)は「高層化と緑化の両立を目指したつもりが、緑側に先を越された形です」とコメントする。一部の幽霊市民からも「都市化は進化だが、緑陰は心の縁側。どちらも失えない」との声がSNSで多数寄せられている。インフラ維持妖怪ユニオンの会計係、モリムラ・ロリカ氏(175歳)は「コロニー式ならば、既存の土地利用ルールを超えて新たな共生モデルができるはず」と前向きな見方を示す。
今や柳公園の“浮遊コロニー”は幽界でも珍しいカーボンニュートラル実践例とされ、観察希望の専門家や短期滞在希望の妖怪観光客が殺到している。柳精霊組合では「人間界の温暖化対策とも連携し、幽界ならではのエコロジー知見を発信していきたい」と意気込む。生と死のあわいに映える、ひときわ静かな浮遊都市。その枝下で、今宵も精霊たちの“うねり歌”が風に溶けていく――。


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