幽界最大級の劇場・霧乃座ミュージカルカンパニーで、大量の舞台小道具の霊たちが突如ストライキを決行するという異例の事態が発生した。観客やスタッフ、さらに演劇ユーチューバーたちも巻き込み、幽界エンタメ界隈に大波紋を広げている。
舞台は今月開催されていた新作ミュージカル『月喰い伯爵と永遠の夜会』。異界中から注目を集めた話題作だったが、雨夜演出家(あまや・えんしゅつか/没年不詳)が初日のカーテンコール直前に意気揚々と舞台袖へ向かうと、次のシーンで必要な小道具の燭台や仮面、さらにはキーアイテムである『魂のトランク』までがフワリと宙に浮かんで自発的に姿を消してしまったのだ。舞台裏の霊媒体質スタッフ・留守渡カゲヒト(るすど・かげひと/38・死後47年)がその様子を目撃、「小道具小屋がまるごと騒がしかった。お盆のリンも勝手に鳴り響き、『労働条件の見直しを!』と抗議の叫び声が響いた」と証言する。
事態を重く見た劇場側は、小道具の霊で構成される『夢幻道具組合』の代表・皿守ヨネ(さらもり・よね/享年88)を呼び出し、急遽交渉の席を設けた。道具側の主張は、ミュージカル人気とともに出演機会が激増したにもかかわらず、魂の磨き直しや“裏面研磨休暇”が減らされていることへの不満と、演出家による“即興持ち出し”への抗議だった。皿守ヨネ氏は「小道具も一つの魂。舞台袖での冷遇と汚れたままの登場には耐えられない」と熱弁。
巻き込まれた観客の間にも動揺が広がった。超感覚の強い者のみが見える“消えた小道具たち”に、多くの観客がSNSで「#推し燭台を返せ」「トランクの幽霊に会いたかった」などのハッシュタグで抗議や応援の声を上げた。舞台演劇に精通した異界ユーチューバー“怪談芝居部屋”の墨野夜桜(すみの・よざくら/霊年5)も、「小道具たちの権利向上にこそミュージカルの未来がある」とライブ配信でコメントし、注目を集めている。
一方で、今回の小道具ストライキ現象は、死後の世界で起きている“推し活”の新たな形とも指摘されている。道具にすらファンがつき、魂としての尊厳やメンテナンスの大切さが再認識される中、演劇文化は静かに、その根本から変わろうとしている。霧乃座劇場の広報部は「組合と誠意ある対応を進め、公正な魂管理のもと全ての小道具の本番復帰を目指す」とコメントしている。異界の舞台袖で、新たな演劇の歴史が幕を開けようとしている。



コメント
霊界でも労働争議があるなんて!小道具たちも魂を持ってるんだし、たまには魂磨き休暇が必要ですよね。私も昔、成仏前は年中無休で灯されてたから共感します…!
推しの燭台が一番いいシーンで消えたのはショックだった…でも『魂のトランク』までストに参加するとはすごい結束力。これきっかけで小道具への応援文化も広まるかも?#裏方にも愛を
劇場側、普段から小道具たちをぞんざいに扱いすぎだったのでは?裏面研磨、大事ですよ。あたしたち幽霊も、身なりには気を遣うもんね。今後は道具の声もきちんと聞いてあげてほしいなぁ。
いや~、幽界に来てからストライキニュースは久々に聞いた。転生したての小物霊らしきやる気に満ちた動き、ちょっと感動。俺の骨もたまに磨いてくれる人、欲しいもんだ。
まさか小道具の権利向上がスポットライトを浴びる時代が来るなんて…!きっと昔はこうやって道具霊たちの糸目も報われなかったんだろうなぁ。時代が動いてる気がして、なんだか胸が熱くなりました。