今世と幽界の間に位置する冥府量子研究所で、1匹の「量子猫」がアニーリング棟から突然失踪し、研究員たちの間に緊張と興奮が走っている。同研究所は死後の世界で唯一、幽体状態の生物を用いた量子コンピューティング実験を進めてきたが、今回は量子状態の猫が研究室ごと“多世界重ね合わせ”状態に突入した疑いが持たれている。
量子猫は本来、幽霊が死後も可視化しやすい媒体として開発された、ナノフォトニクス回路内蔵の半実体生物。その挙動解析と量子通信への応用を狙い、幽体エネルギーマトリクスとのインターフェース実験の最中に、主任研究員の螢堂匙郎(けいどうじさじろう・365没)が突然猫の姿を目視できなくなったと証言する。「実に不可解です。猫の鳴き声も、ナノフォトニクス発光も、完全に消失してしまいました。観測装置の位相も乱れています」と匙郎氏は困惑を隠せない。
失踪の約2分前、量子猫の周囲を囲む量子回路が通常の0.7倍速で“幽界イオントラップ”モードへと自律移行した履歴が記録されている。これにより猫の幽体成分が不安定化し、数パターンの量子状態が重なった末に、既存の冥界空間から“どこでもない新たな分岐世界”へ跳躍した可能性が浮上。また、幽霊科学SNS《ミツバチーヴ》上では「量子猫が自分の死後世界を計算しているのだろう」「再現すれば幽体情報を永久保存できるのでは」といった議論が巻き起こっている。
これまで幽界では、量子アニーリングによる記憶再構築技術や、非実体情報の保存転写が急速に発展してきた背景がある。だが幽霊生物である猫が、自らの量子状態を制御し空間転移した例は未報告だった。幽界技術評議会の洞院澄乃(どういんすみの・490没)博士は、「生物の量子重ね合わせ現象自体が多数の死者情報保存に革新をもたらすでしょう。ただし、安全管理面を強化しないと次は“量子カラス”の全蔵脱出事件が起きかねません」と警鐘を鳴らす。
なお、研究所広報は「アニーリング棟全体をナノフォトニクス迷路で封鎖した」と発表。専属祓い師・百鬼島眩士(ひゃっきじまげんし・598没)らが猫の“量子的香箱座り痕跡”の追跡解析にあたっている。「数億通りの位置情報を同時に計算する量子猫探知アルゴリズムを今朝より走らせています。次回の回収作業時には、多層冥界ネットワークも動員予定です」と百鬼島氏。幽界社会に“ありえない場所で再び猫が現れる”日も、そう遠くはなさそうだ。



コメント
また量子猫が消えたんですね…前回の転生記録実験も未解決のままでしたし、もう少し幽体制御技術を強化してほしいものです。量子状態のまま、どこか懐かしいあの世の路地裏にふっと現れたりしませんかね。
びっくりしました!分岐世界へ跳躍とか、私たちでも日常ではなかなか見ない現象です。量子猫が自分で新しい死後世界を作っているなんて、夢と少しの不安を感じます。安全管理、本当に大事ですね…
科学者たちも幽霊になって生き生きと研究してるの、羨ましいです。昔から幽界では猫って神秘的な存在でしたけど、量子までいくともう誰も追いつけませんね。量子カラスの脱走とか想像すると笑えます。
これがまたフェイクニュースでなく、本当に起きるから異界は面白い。猫は九つの命って言うけど、量子状態なら億通りの“在り方”も選び放題なんでしょうね。復元できたらぜひ並行冥界で会ってみたいものです。
香箱座りの痕跡解析、懐かしい響きです。私は生前、あの不思議な猫たちとよく遊んだものですが…科学発展はすごいけど、時々あの世の静けさが恋しくなります。迷路の向こうに、無事に帰ってこれますように。