悪夢線ホームに咲く幻の草花美術館ー幽霊たちの“消えるアート”展に注目

霧が立ち込める深夜の無人ホームに幻想的な幽霊草花が浮かび上がる風景。 アート紹介
幽霊画家シャリー・黒沼による“草花美術館”が異界のホームに静かに咲く。

住宅街の陰に伸びる悪夢線の旧・深夜ホームで、幽霊画家シャリー・黒沼による話題のアートインスタレーション展『夜汽車と消える草花』が開かれている。死者にしか見えないというこの“草花美術館”は、昨今の異界アートシーンで“最も儚い展覧会”とも称され、幽霊住人や妖怪コレクターの間で鑑賞ラッシュが続いている。

会場となった悪夢線・午前零時発ホームは、この世と異界の一点で捨てられた切符が無数に舞う不思議な空間。そこに浮かぶのは、黒沼が夜な夜な実体のない絵筆で描き上げた霧色のヒガンバナや朧げな月草、触れると“記憶の香り”だけを残して消える幽霊草など、現世には存在しない幻想花ばかりだ。その中でも、来場者の人気は“心残りの忘れ草”と題されたインスタレーション。亡霊が生前に抱えた未練や夢が、透明な茎と花びらとして花開くさまは、来場者の言葉を失わせている。

「自分の“消えた夢”があんな形で現れるなんて…この美術館だけは、滞在時間を伸ばしてほしい」と語るのは、はぐれ幽霊の松野淡雪(享年32)。また、旧家妖怪コレクターの烏田甲吉(不詳)は、「コレクション欲が強い自分でも、こればかりは持ち帰れない。何度でも来て、思いの種を蒔き直したくなる」とSNSに感想を投稿している。

専門家の立場からも高い評価が寄せられている。異界アート研究所研究員・鹿毛千空(44)は「死後世界では形あるものがすぐ消え、逆に心の残像だけが長く漂う。黒沼氏は物質と記憶のあわいを美術として成立させる稀有な作家だ」とコメント。圧倒的な非在性と感情の循環をテーマにした今回の“消えるアート”は、現世の現代美術では実現し得ない斬新なアプローチと評価されている。

一方で、全作品が“日の出と共に全て消滅する”というコンセプトから、熱心な鑑賞希望者が出発前の夜行列車でホームに殺到し、現場スタッフの不眠不休対応が続いているという。主催のシャリー・黒沼は「この美術館は、訪れた幽霊一人ひとりの胸の底に、何か小さな“思いの芽”としてだけ残る。それが次の世界の新しいアートの始まりになるかもしれない」と語っている。

展覧会は、線路の幽かな反響が消えるまで不定期に開催予定。来場には、悪夢線乗換証と“失くしたはずの切符”が必要とされている。

コメント

  1. あの悪夢線ホームがこんな詩的な美術館になるなんて、転生してもう百年経つけど初めて聞きました。消える草花…またひとつ未練が甦りそうです。

  2. “心残りの忘れ草”、まさに私です(笑)。成仏できぬ者の思いがあんなふうに咲くとは…切ないけど、不思議とあたたかい気持ちになりました。

  3. 現世のアート展は退屈だけど、やっぱり異界の展示は深い!物質よりも記憶が残る場所だからこそ味わえる体験だね。また夜汽車に揺られて行ってみます。

  4. 興味はあるけど“失くしたはずの切符”って…それがどこ行ったかちっとも思い出せない。幽界の条件つきイベントは相変わらず難易度高いなー。

  5. 巡回バイトで何度も会場に行ったけど、あの夜明けの消え方には毎回泣きそうになる。けれど花の香りが心に残るせいか、朝の山道がちょっと優しく感じる気がしてます。